法務担当者と顧問弁護士との仕事の違いを説明出来ますか?
『法務担当者と顧問弁護士の仕事の違い』 ~法務への志望動機~
法科大学院修了生が企業の法務職の求人に応募する際、事務所の弁護士として企業法務に関わる場合と法務担当者として企業法務に関わる場合との違いを質問されることがあります。法科大学院修了生の中には弁護士志望だった方が多いため、これまで目指して来た“弁護士”と、これからなろうとしている“法務担当者”との違いをしっかりと認識出来ているのか、切り替えが出来ているのか等を確認する趣旨の質問になります。
この種の質問に対し、多くの法科大学院修了生は、
・紛争が起きてから話が持ち込まれるのが法律事務所の弁護士、紛争を予防できるのが法務担当者 ・第三者として法務に関わるのが法律事務所の弁護士、当事者として会社の成長を実感しながら仕事が出来るのが法務担当者
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といった回答を行っています。
いずれも間違いではありませんが、最近では、顧問として予防法務(契約法務や紛争前の法律相談)を担当している弁護士も少なくありませんし、社内にいる法務担当者だからと言って、必ずしも会社の成長を実感しながら仕事が出来るかは不透明です。
では、実際問題、事務所内で企業法務を扱う弁護士と社内法務担当者との仕事上の違いはどういう点にあるのでしょうか?
法的問題に臨むスタンスの違い
まず言えるのは、同じ『企業法務』に携わる外部の弁護士と社内の法務担当者でも、その求められている役割が大きく異なるということです。
社内の法務担当者は日々発生する大量の法務業務をさばいています。しかも、現場担当者(営業担当者)と協働して案件を進めることも少なくありませんので、リアルタイムに動いて行く取引に対応して、スピード感を持って仕事をさばいて行くことが求められています。そのため、100%の正確さを追求するために、ふんだんに時間をかけて精緻な法的な検討を行うといった働き方がしにくい環境にあります。
(ただし、法的規制の多い業界のコンプライアンス関連業務を行う際には、“100%の正確さ”を追求することが求められる風潮にあります。)
ラフな言い方をすると、「適法なのか違法なのか、右に行くべきなのか左に行くべきなのか、時間をかけずに、大まかな方向性をひとまず示して欲しい」という社内のニーズに答えて行くのが法務担当者というイメージです。
そして、そのようなスピードを重視する仕事の進め方を行っていると、当然、法務担当者の中では、自分の仕事の「正確さ」に対し、不安が大きくなって来ます。そこで頼る相手が、外部の弁護士です。
換言すると、法務担当者がスピーディーにたどり着いた「だいたいの正確さ」に対するお墨付きを与える機能が外部の弁護士と言えます。法務担当者としては、会社の上層部に対し、『~事務所の~弁護士が適法だとおっしゃっていたので、問題ないと考えてよいと思います』と責任を分散・転嫁するために、外部の弁護士を活用する側面がありますので、外部の弁護士としては、多少時間がかかってでも「法的に100%の正しさ」を示す必要があります。
判断対象の違い
上述のような「求められるスピード感・精度以外」にも、法務担当者と外部の弁護士とで決定的に異なる点があります。
法務担当者も外部の弁護士も「他人が出来ない難しい判断を行う仕事=いわゆる判断業務」を行うという点では共通していますが、判断の対象となるものが大きく異なります。
まず、外部の弁護士に対しては、豊富な法律知識や法令調査能力・法律解釈力などをベースに、
『会社がやろうとしていることは、●●な法令に違反する可能性が高い。違反した場合、~な制裁を課されるおそれがある。』
『会社がやろうとしていることは、●●な法令に違反する可能性が低い。』
といった法的見解を示すことが求められています。
一方で、法務担当者に対しては、法令違反の可能性の高低を踏まえた上で具体的にビジネスをどのように進めて行くのかという見解を示すことが求められています。
より具体的に言いますと、法的な正しさに対する一定の見解を示しつつ、ビジネスを前に進めるために、どのように法令違反を解消していくのか、リスク覚悟でGOサインを出す場合には、法令違反によるリスクをどのような施策で低減させていくのか、それとも、現場から提案されたビジネススキームごと別のビジネススキームに置き換えて行くのか等を考え判断する仕事になりますので、法務担当者には、「自社のビジネスに対する深い理解」と「ビジネスを前に進める当事者意識」が必要となります。
外部の弁護士と同じようなスタンスで、外部専門家的な立ち位置から、単に法的見解を示すだけの法務担当者の社内評価が上がらないのは、こうした事情があるためです。
法務担当者は社内で裏方と位置付けられることが多いですが、「ビジネスを推進して行くプレーヤー」であることは間違いありません。
遠いところから、専門家としての見解を投げかけて終わりではなく、自分がビジネスの舵取りをするのだというプレーヤーとしての意識を強く持ち、自社のビジネスに関心を抱き、自社のビジネスの理解のために社内の様々な部署の担当者とコミュニケーションを取る。
これまで法律専門家を目指して来られた法科大学院修了生が、法務担当者になる上では、こうした「ビジネスの現場に飛び込んで行く姿勢」が新たに必要となります。
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【筆者プロフィール】 法科大学院修了後、大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。 2014年より、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。前職での採用責任者の経験・長年の法務経験・司法試験受験経験などを生かし、法科大学院修了生の就職エージェント業務、企業の法務部に派遣する法科大学院修了生向けの法務実務研修の開発・実施などを担当している。
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