2020年3月段階、連日、新型コロナウイルスの世界的な感染者増加のニュースが鳴りやまない状況ですが、その影響は経済面にも色濃く出て来ています。欧米市場の株価は急落し、それを受けて、東京株式市場の日経平均株価も大きく値下がりするなどしています。
12日の東京株式市場は、日本時間の午前10時すぎに行われたアメリカのトランプ大統領の国民向けの演説のあと、値下がり幅を拡大し、日経平均株価は、1000円以上、値下がりしています。
出典:NHK NEWS WEB
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こうした状況から、新型コロナウイルスに起因する経済的不況、いわゆる「コロナ不況」が早晩訪れるとの声も出ています。
就職活動中または司法試験後の就職活動開始を検討している法科大学院修了生にとっては、不況がご自身の就職活動にどれほどの影響を与えるのかが大きな関心事だと思います。
本記事では、リーマン・ショック(2008年9月15日のリーマンブラザーズの経営破綻に端を発する経済不況)時の就職動向をひも解きながら、今後、経済不況が訪れた場合の法科大学院修了生の就職動向について考察して行きます。
リーマン・ショックと学部新卒の就職活動
➊求人枠の減少と就職内定率の低下
リーマン・ショックが日本経済に本格的に影響をもたらし始めるまで2年ほどのタイムラグがあったと言われています。そのため、企業の出す求人数・求人枠数への影響が出始めたのも、2010年~2011年にかけてとなっています。
「大学卒業予定者の卒業前年10月時点での就職内定率の推移」に着目すると、2009年の文系学生の就職内定率が70.4%だったのに対し、リーマン・ショックの影響が現れ始めた2011年には57.4%にまで大幅下落しています。
(出典:統計情報リサーチ 文理別の就職内定率の年次推移)
計測時点が異なるため単純比較はできませんが、2019年12月時点での大学卒業予定者の就職内定率が87.1%であることにも目を向けますと、リーマン・ショック後の就職活動の厳しさと共に、近年の新卒市場がいかに売手市場だったのかも見えてきます。
➋採用内定取消し件数の増加
また、新卒大学生の採用内定取消し件数の推移に着目しますと、2008年が1761件、2009年が98件、2010年が260件となっており、売手市場と言われた2018年の16件と比較し、軒並み高い数値となっています。
(厚生労働省「新規学校卒業者の採用内定取消し件数の推移」)
人事の方から告げられた内容は
・人事の人間は会社には利益を出さないので退職希望者を募ったり、リストラすることになった。その結果このオフィスには2人しかいない。
・IT部門は立ち上げて2年ほどしか経っていないので、利益を出すことができない新入社員を雇う余裕はない。
・もし嫌でなければITではないが地方のライン作業(シフト制)の仕事なら用意することができる。
・それが嫌なら、そちらから内定取り消ししていただいても構わないし、それでうちはあなたを訴えない。
こうして卒業まであと1ヶ月半ぐらいしかないにも関わらず内定取り消しにあいました。
出典:リーマンショックで内定取り消しにあった私が当時を振り返る
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おそらく、2008年9月のリーマン・ショックを受けて、経営の先行き不透明感から、先陣を切っていくつかの企業が内定取消を敢行し、その後は他の多くの企業が採用枠を絞って行き、内定率が下がって行ったという構図なのだと思います。
ちなみに、上記の内定取消し件数には反映されていませんが、内定取消しによる批判をかわすために、自主的な内定辞退を求めたり、入社後に試用期間中に理由を付けて自主的な退社を促すような企業もあったそうですので、実態としては、先の数字以上に厳しいものがあったとみられます。
リーマン・ショックと法科大学院修了生の就職活動
ここまで、リーマン・ショック時の学部新卒の就職活動について見てきました。それでは、当時の法科大学院修了生の就職活動はどのような様相を呈していたのでしょうか。
それを知る上では、当社で取り扱っていた法科大学院修了生向け求人数の推移が参考になると思います。
※売手市場と言われた2019年度の求人数を100%としたときの比較値になります。
ご覧のように、2008年・2009年は、求人数が今の半分以下となっておりますが、さらに、当時は法科大学院入学者が今の2~3倍ほどいたことを考えますと、競争倍率は現在の5~6倍ほどだったと考えられます。
かなり、厳しい就職戦線だったことが容易に伺えますね。
その結果、営業職や総務職・庶務職・社長秘書といった法務以外の職種への就職を模索する方、予備試験や他の資格試験などに再挑戦される方、就職を諦めてフリーターになる方などが多数派を占めており、法務職、ましてや人気度の高い上場企業に就職を果たす方は非常に限定的でした。
20代で一定以上のコミュニケーション能力があり、平均的な学歴を備えた法科大学院修了生の多くが法務職として上場企業に就職している現状との差は顕著です。
新型コロナ・ショックと法科大学院修了生の就職活動
では、今後、新型コロナの感染拡大に伴う経済不況が現実に到来した場合、法科大学院修了生の就職活動にどのような影響が及ぶのでしょうか。
リーマン・ショック時の就職動向に照らす限り、まず、不況到来当初は、「内定取消し」の件数が増えることが予想されます。その場合、当然のことながら、内定獲得から入社までの期間が長いほど、内定取消しのリスクに長くさらされることになりますので、学部新卒枠のように、来年4月の入社を見越した採用枠での就職活動には一定のリスクが伴うと言えます。そのため、不況直後においては、内定取消しのリスクの回避という観点で、内定から入社までの期間が短い中途採用枠の方がリスクの少ない選択肢になると思います。
また、内定取消しの代替として、「試用期間中の解雇」も増える可能性がありますので、なるべく解雇の口実を与えないよう、電話の受電・架電、ビジネスメールの作成、社内ホウレンソウなど、一般的なビジネスパーソンが当たり前にできることを当たり前にできる状態で入社するのが望ましいです。その観点で、企業内でのインターン・アルバイト・派遣などを経験しておくのも有効です。
さらに、法科大学院修了生向けの求人数という観点でも、不況突入から1~2年をかけて現在の半分ほどまで落ち込むおそれがあります。おそらく、今後しばらくは就職活動を行う法科大学院修了生の数に大きな変化はないと予想されますが、その前提で考えると、競争倍率は現在の約2倍ほどと急増する見込みです。
売手市場下では年齢・学歴等が平均的な法科大学院修了生の平均就職活動期間は「2ヶ月~5ヶ月」ほどとなっていますが、競争倍率が2倍となると、この期間が「3ヶ月~7.5ヶ月」ほどに延びるのではと予想されます。そのため、求人数の減少が認められる前に、いち早く就職活動を開始した人が大きく得をすることになると思います。
また、人気求人の倍率が今以上に増すことになるため、人気度の高い企業から内定を獲得する難易度は一層高まる見込みです。応募先企業の人気度・キラキラ感に固執し過ぎず、「人気はそれほど高くないけど、自分自身のキャリア軸に沿っている」選択肢を適切に見分ける目が必要になりそうです。
終わりに
本日は、リーマン・ショック時の就職活動データを元に、今後訪れるかもしれない、新型コロナ・ショック下の就職活動について考察してみました。
色々とネガティブな面に触れはしましたが、法科大学院修了生の総数自体が減っていることが幸いして、リーマン・ショック時ほどの厳しい就職戦線にはならないのではと見ています。
いずれにせよ、好況下でも不況下でも就職活動でやるべきことの大枠は変わりませんので、市況に合わせたご自身のベストポッシブル(選択可能な中で最良な選択肢)をしっかりと見極めつつ、就職力を高めるための研鑽を積み上げて行ってください。
【筆者プロフィール】
齊藤 源久
法科大学院修了後、大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。
2014年より、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。前職での採用責任者の経験・長年の法務経験・司法試験受験経験などを生かし、法科大学院修了生の就職エージェント業務、企業の法務部に派遣する法科大学院修了生向けの法務実務研修の開発・実施などを担当している。
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