先日、就職を果たした法科大学院修了生の方から、ある相談を受けました。お話をまとめますと、
➊入社早々、不慣れなことが多く、初歩的な失敗を重ねてしまった
➋その結果、周囲からの評価が下がり、早くも、“あまり仕事ができない人”というレッテルを貼られてしまっているように感じる
➌そこから、失敗が恐くて萎縮してしまい、何事にも消極的になってしまう
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ということでした。
ただ、入社したばかりの新人が初歩的な失敗をしてしまうのは日常茶飯事ですし、そうした失敗を乗り越えて、周囲からの評価を段々と高めて出世していくケースもよくある話です。その意味で、入り口で失敗を重ねたことはあまり問題ではなく、むしろ、最初のつまづきから、すっかり「失敗をおそれる姿勢」が身に着いてしまった点が問題と言えます。
企業内においては、失敗をする人か否かよりも、失敗にどう向き合う人かがより見られる傾向にあるからです。
失敗を恐れる法科大学院修了生
普段から法科大学院修了生に接していても、失敗を強くおそれる人は非常に多い印象を受けます。
実際、インターンの方に「こういう仕事をやってみますか」と仕事を振ってみたときに、一気に緊張でこわばった表情になる人は少なくありません。
一応断っておきますと、当社のインターンは失敗しても叱られないですし、メンターとなる社員が、失敗の原因を一緒に対話しながら考え、それを受けて、次にどうしたらよいかを具体的に話し合い、ときに、失敗の裏側にある積極的な挑戦や成長を褒め、最後に、「次は大丈夫」と励まして終わる。そんな環境です。
その意味で、どこよりも失敗しやすい環境があると考えていますし、実際、参加したインターンの方も口を揃えてそのようにおっしゃってくださいます。
それでも、「うまく出来ないのでは」、「失敗するのでは」というネガティブな思いが頭をよぎり、仕事を振られることを心からは前向きに捉えられない人が多い状況です。
失敗を恐れると損をする理由
受験の中では「ミスをしないこと」の価値は大きいと言えます。私自身、中学受験をやっていたときには、「ミスをしない」ように、答案提出前に、神経衰弱になりそうなくらい何度も何度も何度もミスの確認をしていました。
法科大学院修了生は、受験の世界にいた期間が極端に長いため、「ミスをしないこと」の価値を、一般の人以上に高く見積もっている可能性が高いと見ています。
その結果、仕事を行う際にも「一回もミスをしないこと」を目標に仕事に取り組む人が多いのだと思います。
それは、100点満点の試験で、一回もミスをせずに100点を獲得することを目指すような働きぶりと言えます。これを読んだ人の大半は、それの何が悪いのだろうと感じると思いますが、一回もミスをしないことだけを意識して仕事を行う人は、100点以下の点数しか取れません。
たしかに、100点が満点となる試験では100点以上は取れないので、一回もミスをしないことこそが一番の成功だと思います。
でも、仕事においては、獲得できる点数に上限はありません。
仕事を振った側の期待が「100点のアウトプットを出すこと」だったとしても、200点、300点のアウトプットを出すことができますし、多くの企業では、むしろその方が評価が上がる傾向にあります。
また、たまたま、自分に仕事を振った上司が「100点のアウトプット」をオーダーしていた場合でも、上司の上司は「500点のアウトプット」を求めているケースも多々あります。そして、その場合には、最終的に「100点のアウトプット」では不十分だという評価となるおそれがあります。
その意味で、「100点のアウトプット」が求められる中で、「100点を超えるアウトプット」を狙いに行くメリットは大きいと言えます。
こうした背景から、失敗をおそれる人が、90点、50点、70点と100点以下の点数を積み上げ、「自分で思考しない」「言われたことしかやらない」という不名誉なレッテルを貼られる中で、300点を目指して仕事に取り組む人は、200点、30点、110点と失敗をおそれる人よりもトータルで高い点数を積み上げ、「新人らしいミスはあるものの、自分なりによく考えている」、「積極性がある」、「会社への貢献意識が高い」と前向きな評価を受けるという構図が生まれています。
前者は、100点までしか期待できない人材のため、ミスをしないことだけに価値が認められ、仕事においては、ひたすらミスにスポットライトが当てられがちです。だから、周囲からミスを厳しく追及される立場に追いやられる傾向にあります。
一方で、後者は、ミスとチャレンジの両方にスポットライトが当てられる結果、ミスに対するシビアな評価を回避できます。
だから、ミスをして100点を取れないことを恐れるよりも、求められる以上のアウトプットを出すにはどうしたらよいかに頭を悩ませる人の方が成功しやすいのだと思います。
失敗への恐れを克服するには…
とは言え、「恐いものは恐い」という気持ちはわからなくはありません。特に、司法試験の不合格を経てから就職した方は、司法試験の不合格によりご自身の外部的評価が毀損したと感じ、それゆえに外部的評価を過度に気にする人が少なくないと思います。だからこそ、仕事での失敗=外部的評価を毀損するものとして、失敗が恐くなるのだと思います。
そんな方には、「覚悟の磨き方 超訳 吉田松陰」という本に出て来る一節が力を与えてくれるのではないでしょうか。
「評判は傷ついても生き方は傷つかない。生き方を傷つけるのは自分だけ。」
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失敗によって、外部的評価が傷ついたかよりも、自分の生きざまが傷ついたかに目を向ける。
チャレンジにどのように向き合う生き方をしたいか、失敗にどのように向き合う生き方をしたいのかを自問自答し、自分の生き方を傷つけない振る舞いを重視する。
そんな姿勢で仕事に臨んでみてはいかがでしょうか。
【筆者プロフィール】
齊藤 源久
法科大学院修了後、大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。
2014年より、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。前職での採用責任者の経験・長年の法務経験・司法試験受験経験などを生かし、法科大学院修了生の就職エージェント業務、企業の法務部に派遣する法科大学院修了生向けの法務実務研修の開発・実施などを担当している。
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