皆さんは、『コンピテンシー面接』という言葉を聞いたことがあるでしょうか。近年、応募者が持っている能力の本質をはかる手段として、人事界隈で注目を集めている面接手法です。本コラムでは、コンピテンシー面接の概要を解説しつつ、こうした新しい面接手法の導入が法科大学院修了生の選考に及ぼす影響について考察して行きたいと思います。
コンピテンシー面接とは何か?
➊コンピテンシーという能力概念
まず、そもそも、『コンピテンシー面接』とは、どのような面接手法なのでしょうか。それには、「コンピテンシー」とは何かを理解する必要があります。
学習して獲得した知識やスキル、学力面での優秀さを表す『アビリティ』と対照的な能力概念になります。
従来の面接では、アビリティを中心に見極めが行われていましたが、いざ、アビリティの高い応募者を採用したものの、仕事上の成果を出せる人材と出せない人材とに大きく分かれることがわかり、この『コンピテンシー』という概念に注目が集まるようになりました。
そして、そのコンピテンシーの高さを確認するための面接がコンピテンシー面接になります。
➋コンピテンシー面接の手法
コンピテンシー面接では、応募者に具体的な場面を思い出してもらい、その中で、工夫しながら能力を発揮して、成果につなげた行動事例を聞くことを明確な目的にしています。応募者に問うのは、自分の考え、意見よりも、実際にとった行動なのです。
出典:まんがでわかるコンピテンシー面接(弘文堂)
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従来から、各社、「仕事上の成果を出せる人材」を見極めたいという思いこそありましたが、従来の面接では、難しい質問・意地悪な質問等への切り返しの上手さに着目して、地頭の良さを測り、こうした地頭の良さを以て、「仕事上の成果を出せる人材」と判断している部分がありました。しかし、そうした切り返しの上手さと、自分の持つ能力を仕事上の成果に繋げられるかは、別次元の話になります。また、切り返しの上手い応募者の中には、即座に嘘をついてその場を乗り切れてしまう人もいます。それが、従来型の「考えて答える」形式の面接の限界とされていました。
これに対し、コンピテンシー面接では、成果を生み出すためにどのような行動を発揮したのかを「思い出して答える」形式の面接になります。面接官は応募者の記憶喚起を助け、話の具体性を高めるために、いつ、どこで、どんな行動を取ったのか、その時、周りにどんな人がいて、その人はどんな発言をしていたのか等を質問して行くことになります。
➌コンピテンシー面接の評価方法
それでは、コンピテンシー面接では、どのように応募者を評価するのでしょうか。コンピテンシー面接では、応募者が面接で話した行動事例に対して、以下のように、5段階のコンピテンシーレベルで評価を行うとされています。
レベル1:言われたことを言われたときにやる(受動行動)
レベル2:やるべきことをやるべきときにやる(通常行動)
レベル3:いまある状況の中で、工夫を加えた行動、明確な意図や判断に基づく行動、明確な理由のもと選択した行動(能動行動)
レベル4:状況を変化させるため、独自の工夫を加えた行動、独創的行動。状況を変化させよう、打破しようという行動(状況変容行動)
レベル5:まったく新たな、周囲にとっても意味ある状況を作り出す行動(状況創造行動)
出典:まんがでわかるコンピテンシー面接(弘文堂)
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すなわち、より自走性・自主性が高く、深い思考に基づく行動事例を「高いレベルのコンピテンシー」として、高く評価する評価方法になります。
コンピテンシー面接の流行が法科大学院修了生の選考に及ぼす影響
それでは、企業の多くが、このコンピテンシー面接という面接手法を採用した場合、法科大学院修了生の選考にどのような影響が及ぼされることが予想されるでしょうか。
現状、法科大学院修了生の選考においても、学習して獲得した知識やスキル、学力面での優秀さを表す『アビリティ』と難しい質問・意地悪な質問等への『切り返しの上手さ』、面接等を通じての『人物像イメージ』(周囲と仲良くやれそう、素直そう、輪を乱さなそう)を中心に選考が為されています。
より具体的には、学歴の高さ、TOEICの点数の高さ、面接での機転の利いた受け答え、明朗・快活さなどが重視されている状況です。いわゆる、クラスの中心キャラ・人気者・優等生的な人材から採用が決まって行くイメージです。
そこに、コンピテンシー面接が導入され、コンピテンシーレベルの評価の選考比重が増した場合、「何をやったか」、「どのような結果を出したか」、「上手に話せるか」ではなく、「どのような工夫をしたか」という部分の重要性が増すことになります。
そのため、コンピテンシーレベルが高いと評価されるエピソードをどれだけ持ち、披露出来るかが選考の成否を大きく左右することになります。
「過去のアルバイト、司法試験受験、サークル、部活、趣味等の分野で、成果を出すために自分個人としてどのような工夫を自発的に行ったか。」
まずは、その点にフォーカスして記憶喚起を行い、披露出来るエピソードの引き出しを増やして行くことが重要になって来るのではないでしょうか。それと並行して、現在進行形でアルバイト・インターン等でコンピテンシーレベルの高い行動を取り、応募書類上や面接で披露できるエピソードそれ自体を増やすのも有効になると思います。
終わりに
ここまで、コンピテンシー面接が最近の面接のトレンドになりつつあるというお話をして来ました。しかし、「自走性・自主性が高く、深い思考に基づく行動が出来る人材」自体は、従前から多くの企業が求めるところであり、実際、求人票上にも“求める人物像”として、しばしば、そうした記載が為されています。
その意味では、コンピテンシー面接がいまだ浸透しきっていない、今の段階から、コンピテンシーレベルの高さをアピールして行くことは有効だと言えます。ぜひ、過去の体験から、コンピテンシーレベルのアピールに繋がるようなエピソードを掘り起こしてみてください。
【筆者プロフィール】
齊藤 源久
法科大学院修了後、大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。
2014年より、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。前職での採用責任者の経験・長年の法務経験・司法試験受験経験などを生かし、法科大学院修了生の就職エージェント業務、企業の法務部に派遣する法科大学院修了生向けの法務実務研修の開発・実施などを担当している。
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