新型コロナウイルスの感染拡大を受け、2020年度の司法試験本試験は8月中旬に延期されました。それに伴い、合格発表時期も後ろ倒しとなります。このような例年にない特殊な状況下で、企業就職を希望する法科大学院修了生はいつから就職活動を始めるべきなのでしょうか。本記事で考察したいと思います。
2020年、司法試験本試験の実施日延期
新型コロナウイルスの感染拡大を理由に、通常5月に実施される司法試験本試験が8月中旬に延期となりました。
それに伴い、最終合格発表日も例年の9月から翌年1月下旬に延期となっています。
◆司法試験本試験期日
令和2年8月12日(水),13日(木),15日(土),16日(日)
◆短答式試験成績発表
令和2年9月8日(火)
◆司法試験最終合格発表
令和3年1月20日(水)午後4時予定
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例年の法科大学院修了生の就職活動開始時期
例年の法科大学院修了生は、大きく以下の3つの時期に分かれて就職活動を開始しています。
➊ 司法試験本試験の直後(5月下旬)
合否に関わらず企業で働きたいという、企業就職への意欲が強い法科大学院修了生が中心。学部新卒枠を中心に就職活動を行う若めの方、超大手企業のロー卒枠選考が6月上旬から始まることを念頭に活動を開始する方も少なくありません。
➋ 司法試験短答式試験の合格発表日の直後(6月中旬)
残念ながら短答式試験で合格に至らなかった方、短答式試験の成績から司法試験合格の可能性は低いと判断して就職活動に方向変換する方が中心となります。
➌ 司法試験最終合格発表日の直後(9月中旬)
残念ながら司法試験合格に至らず、法曹から企業就職に方向変換する方、司法試験に合格し超大手企業の設ける修習生枠への応募を開始する方が中心になります。
2020年の法科大学院修了生の就職活動開始時期と求人数の推移
上記に照らすと、2020年度に就職活動を行う法科大学院修了生にとっては、①司法試験本試験直後の8月中旬・②短答式試験の合格発表直後の9月上旬、③最終合格発表直後の翌年1月下旬というのが想定される就職活動開始時期になります。
ただ、8月中旬となると、学部新卒枠の採用活動は概ね終わりを迎える時期ですので、学部新卒枠で超大手企業に就職したいと考えている法科大学院修了生は、既に3月・4月くらいから就職活動を開始している方もおられます。
それでは、企業側の求人数自体はどのような推移で変化して行くのでしょうか。以下、採用枠ごとに見て行きます。
■学部新卒枠
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言下でも新卒採用意欲のある企業はWEB説明会やWEB面接などを駆使して採用活動を続けていました。そのため、学部新卒枠の就職活動期間は、それほど例年と変化はなく、4月~8月くらいで大半が終了してしまうと予想されます。そのため、8月の司法試験後に法科大学院修了生が学部新卒枠に応募を行っていくことは、かなり難しいと考えています。
■超大手企業のロー卒枠
例年、超大手企業の何社かが、法科大学院修了生のみを対象とした採用枠、すなわち“ロー卒枠”を設けて採用活動を行っています。通常であれば、6月上旬から8月上旬にかけて、こうしたロー卒枠での採用活動が行われますが、今年に関しては、司法試験後でないと法科大学院修了生の応募が集まらないと考え、採用活動の時期を後ろ倒しし、8月から10月くらいを目途に採用活動を行う企業が増えているようです。
その意味では、ロー卒枠に関しては、司法試験実施日の延期の影響をそれほど受けないと言えると思います。
■中途採用枠
企業就職する法科大学院修了生が最も多く就職していると言われる“中途採用枠”に関しては、もともと、通年でそれほど波なく求人数が見込めるため、ロー卒枠同様、司法試験実施日の延期の影響はそれほど受けないと考えています。
ただ、例年、9月の合格発表後から12月くらいまでが、もっとも多くの法科大学院修了生が就職活動を行うホットシーズンとなっており、その分、競争が激しいのですが、そのホットシーズンが1月から3月に後ろ倒しとなる見込みです。
そして、例年、中途採用枠において1月から3月は一番のボーナスステージです。世間一般の人事異動の時期と重なるため、不意にポジションが空くことが少なくなく、さらに、経験の浅い法科大学院修了生を採用するにあたり、4月から入社してくる学部新卒と同じタイミングで採用したいと考える企業が多く、4月1日入社を目指した急募の案件となることが多いためです。急募となる分、選考のハードルが下がる傾向にあり、法科大学院修了生にとってチャンスの多い求人が増えるという図式です。
そのため、9月~12月のホットシーズンで強力なライバルに後れを取った法科大学院修了生が年明けの1月~3月の間に内定を獲得するというケースが少なくありませんでした。どこか、「ホットシーズンで良い結果が出なくても、年明けからのボーナスステージで内定を取れればいいや」という二段構えで余裕を持って就職活動に臨めていたところはあると思います。
しかし、今年は、法科大学院修了生の就職活動のホットシーズンとボーナスステージとなる時期が重なるため、1月~3月の時期に内定が取れなかったときに、その後はそれほど楽観できない状況が生まれそうです。
さらに、もし、来年の司法試験が例年どおり5月実施となった場合、5月下旬からは早々に新たなライバルが追加されることになります。
これらを踏まえると、2020年度の法科大学院修了生の就職活動について、以下のようなことが言えると思います。
・就活競争力で上位20%ほどに入る法科大学院修了生(年齢が若く、学歴が高く、コミュニケーション能力が高い方)にとっては、今年は例年よりもホットシーズン(2021年1月~3月=ボーナスステージ)での内定獲得が容易になる
・例年であれば、ホットシーズンで内定を取れなかった就活競争力の法科大学院修了生の一部(上位約20%~35%)も、ホットシーズン中に内定獲得できる可能性が高まる
・例年、ボーナスステージで内定獲得していた層の法科大学院修了生は、内定獲得の難易度が上がる
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就活競争力の高さが見込める法科大学院修了生は、合格発表後の就職活動で問題ないと思いますが、それほど自信がない法科大学院修了生については、8月の司法試験直後から前倒しで就職活動を始めるか、8月の司法試験直後から企業の法務部で派遣で働き実務経験を積むなどの“武器作り”を行った方がよいと思います。
今年、就職活動を考えている法科大学院修了生にとっては、予期せぬ社会情勢の変化により様々な不便を強いられる形となり、心苦しく思いますが、よろしければ、本記事をご参考に、どのタイミングで就職活動を開始するかを検討してみてください。
【筆者プロフィール】
齊藤 源久
法科大学院修了後、大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。
2014年より、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。前職での採用責任者の経験・長年の法務経験・司法試験受験経験などを生かし、法科大学院修了生の就職エージェント業務、企業の法務部に派遣する法科大学院修了生向けの法務実務研修の開発・実施などを担当している。
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