大多数の企業が応募者に「コミュニケーションスキル」を求めています。そして、多くの人が「コミュニケーションスキル」と聞いたときに、上手に話せるスキルを想起していると思います。
しかし、ビジネスで求められる「コミュニケーションスキル」は、自分の考えや感情を簡潔かつわかりやすく伝達するスキル、いわゆる“上手に話すスキル”と、相手の話に耳を傾け、相手の考えや感情を理解するスキル、いわゆる“傾聴力”との両輪により成立しています。
すなわち、面接で「コミュニケーションスキル」が高い人材と認められるためには、“上手に話すスキル”と共に、“傾聴力”を示す必要があるということになります。一方で、面接に苦手意識を持つ法科大学院修了生の中には、“傾聴力”に難のある方が少なくない印象を受けています。今回は、面接準備の過程で、やや軽視されがちな、この“傾聴力”について掘り下げて行きたいと思います。
傾聴力とは何か?
まず、そもそも「傾聴力」とは、具体的にどのようなスキルなのでしょうか。
このように、一心に相手の話に耳を傾けて「相手を理解することに徹する」スキルを傾聴力と言います。面接で傾聴力を示すことで、
・面接官に対し「ビジネス上のコミュニケーションをスムーズにできる人材」という心証を与えることができる
・面接官に「応募者と心を通わせることができた」という満足感を与えることができる
・気持ちよく話ができる相手と認識され、シンプルに心証が良くなる
といったメリットがあります。
法科大学院修了生の傾聴力
では、一般論として、法科大学院修了生の傾聴力はどれほどでしょうか。私自身の過去の法科大学院修了生の選考経験、直近での模擬面接経験などに照らして考えますと、地の傾聴力の高低はともかくとして、結果として「傾聴力が低い」という評価になる法科大学院修了生は少なくないと思います。
なぜなら、面接の場で傾聴力を示すことの重要性を認識している法科大学院修了生は少なく、傾聴力を示すことよりも、口頭試問のように面接官の質問にそつなく優等生的に返答を行うことを重視する方が多いためです。また、“法曹”という仕事に対して、傾聴力の高さよりも、雄弁に弁舌を振るうイメージが強いため、聴けることよりも話せることに価値を感じる傾向があるのも理由だと思います。
その結果として、「一心に相手の話に耳を傾けて相手を理解しようとする姿勢」が薄れて行くのだと思います。
また、普段、弊社にインターンとして来られる法科大学院修了生と接していても感じるのですが、法科大学院修了生は質問を行う際、「相手の話を真に理解しよう」という観点からの質問よりも、「自分の不安を解消する」という観点からの質問が圧倒的に多い印象です。前者の方が傾聴力が高い印象になるのはもちろんのこと、前者は相手から聞いた話をもとに深い思考をしようとしている人、後者は思考をせずに正解を他人から教えてもらいたい人という心証に結びつきやすく、面接評価にも大きな差が生じる可能性があります。
傾聴力を示すためにできること
米国の著名な心理学者、カール・ロジャーズは、自らのカウンセリング事例をもとに、「積極的傾聴(Active Listening)」という概念を提唱しています。そして、積極的傾聴に求められる要素として、以下の『ロジャーズの3原則』を挙げています。
➊共感的理解
相手の話を、相手の立場に立ち相手の気持ちに共感しながら理解する姿勢を持つこと。
➋無条件の肯定的関心
相手の話を、肯定的な関心を持ちながら、善悪・好き嫌いの評価を入れることなく聴くこと。
➌自己一致
相手の話でわからないところがあれば聞き流さず、聞き直し・真意を確認するなど、相手に対しても自分に対しても真摯かつ誠実な態度で聴くこと。
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すなわち、傾聴力を示す上で必要になるのは、本当に相手を理解したいという気持ちを持った上で、「自分の考え・感想を伝えたい」、「自分を良く見せたい」等、自分視点の思考をいったん全て取り去り、ひたすら相手の立場に立って相手の話を聴くことになります。
法科大学院修了生の面接では、人事担当者から会社の説明を受ける場面、法務担当者から業務内容や仕事への思いを聞く場面、役員等から会社のビジョンなどを聞く場面など、「相手の話を聞く場面」が少なからずあります。そういった面接官の話を聞く場面で、自分自身の面接評価を一旦脇に置いて、ひたすらに面接官の言葉の理解に努める。こういった姿勢で面接に臨むことで、「傾聴力」を面接官に示し、ひいては高い面接評価に繋げることができるのではないでしょうか。
【筆者プロフィール】
齊藤 源久
法科大学院修了後、大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。
2014年より、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。前職での採用責任者の経験・長年の法務経験・司法試験受験経験などを生かし、法科大学院修了生の就職エージェント業務、企業の法務部に派遣する法科大学院修了生向けの法務実務研修の開発・実施などを担当している。
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