就職確率に不慣れな法科大学院修了生の中には、面接を苦手とする方が少なくありませんが、各法科大学院修了生の失敗パターンには共通するところも多いと感じています。本日は、法科大学院修了生の面接失敗パターンを類型化し、各パターンごとに、失敗回避の対策を解説したいと思います。
手始めに、過去の法科大学院修了生の面接失敗パターンを列挙しますと、以下のようになります。
(1) 正解をなぞるかのような薄い回答に終始する
(2) 理屈っぽく長い退屈な回答に終始する
(3) 話題が法律の話、勉強の話ばかりで面接官を退屈させる
(4) 情報量の少ない素っ気ない回答に終始する
(5) 「きちんとしなければ」という意識が強すぎて、選挙演説のような不自然なコミュニケーションになる
(6) 過度な緊張を見せてしまい、社会性を疑われる
(7) 聞かれた質問に淡々と答えるだけでアピールの方向性が見えない
(8) 求人内容とのミスマッチを伺わせるトンチンカンな回答をしてしまう
(9) 就職後のビジョンがなく、何がやりたいかわからない、フラフラした人材と評価されてしまう
(10) 面接官が部屋に入って来たにも関わらず椅子から立たない
(11) 面接開始時間のはるか前に来訪し、採用担当者を困惑させる
(12) 面接開始時間が過ぎてから遅刻の連絡をする
(13) 逆質問で平均残業時間、年間休日、有給取得率等に関する質問ばかりを繰り出し、働く意欲の低い人材と評価されてしまう
(14) 逆質問で「それを聞いてどうするのだろう?」といった、意図の見えにくい質問をしてしまう
(15) 逆質問を促されているにも関わらず、ほとんど質問が出て来ず、志望度の低い人材と評価されてしまう
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(1)正解をなぞるかのような薄い回答に終始する
面接を「口述試験」と混同している方に多いパターンで、かなりの割合の法科大学院修了生がこのパターンに陥っています。すなわち、面接の受け答えには“正解”があり、“正解”を答え続けた先に「面接合格」という結果が待っていると誤解しているパターンです。こうした誤解をしている方は、得てして、教科書的・優等生的な回答に終始しやすく、面接官からは、上っ面だけの中身の薄い回答、本音を隠した回答をしているように見えてしまいます。
しかし、面接官は面接を通じて、①キャリアの軸の有無、②人物面、③仕事が出来そうか否かを探っています。基本的に各質問に対する“正解”は想定しておらず、面接全体のインプレッション(印象)から、これら3つの指標に関して評価を下しています。
そのため、面接官からの質問に対しては、外にある“正解”を探し、それを台本のセリフのように披露するのではなく、自分自身の内なる声をベースに考えながら、「伝え方」を意識して面接官に出来る限りの本音を伝えるというスタンスを採ることをお薦めしています。
こうしたスタンスが、発言の説得力・中身の濃さ、質問に対して自己開示をする誠実な人柄という印象に繋がって行くと思います。
(2)理屈っぽく長い退屈な回答に終始する
これも上述の、「面接を口述試験と混同している方」に多く見られるパターンになります。司法試験の論文試験のイメージで、論理的・抽象的・教科書的な内容をベラベラと話してしまうパターンです。しかし、論理的・抽象的・教科書的な内容はある種、誰でも語れてしまう内容になってしまいますので、面接官を退屈させやすく、退屈な分、「話が長い」という印象に繋がりやすいと思います。
面接官からの質問に対しては、やはり、ご自身だからこそ語れる“具体的エピソード”、すなわち、「過去にどんな出来事があって、それに対してどのように感じたのか」を多く織り交ぜながら対話を進めて行くことが大切になります。
また個人的な経験上、話が長くなる法科大学院修了生の一つの特徴として、「時系列で話す」という点が挙げられます。情報を出来る限り正確に伝えようとするあまり、何が起こったかを時系列に沿って丁寧に話してしまうパターンです。
しかし、時系列で話をしてしまいますと、要点からそれた情報も多分に含まれてしまい、かえって聞き手の理解を阻害してしまうおそれがありますので、正確に伝えることよりも、まずは「ニュアンスを理解してもらうこと」を重視して、必要と思われる情報をかいつまんで話すことを心がけるとよいと思います。
(3)情報量の少ない素っ気ない回答に終始する
こちらは、上記とは逆の現象になりますが、「余計なことは言わずに端的な回答をしなければ」という意識が強すぎる方によく見られるパターンです。この種の応募者に対しては、幾度も質問を積み重ねないと知りたい情報を得られないことになりますので、面接官からしますと、“コミュニケーションが取りづらい人”というネガティブな印象に繋がりがちです。
簡単なことではないかもしれませんが、面接官の質問の意図を汲み取りながら、面接官が知りたい情報を必要十分に伝えることが大切になります。
(4)話題が法律の話、勉強の話ばかりで面接官を退屈させる
就職活動を行う法科大学院修了生の大半が、直近まで全てを投げ打って司法試験受験に全力投球していた方になります。そのため、直近の話題が法律の話・勉強の話しかないという方も少なくなく、面接の場でも、法律の話・勉強の話に終始するケースが後を絶ちません。また、「面接の場では“きちんと”した人に見せなければ」という意識から、きちんとした話≒法律の話・勉強の話を強調しがちという側面もあると思います。
しかし、面接官の大半が法的なバックグラウンドのない方になりますので、法律の話・勉強の話をしても退屈させてしまう可能性が高いと思います。
学部時代の話にさかのぼっても結構ですので、面接官に聞かれない限りは、法律の話・勉強の話以外の話題を中心に対話を進めた方が、面接が盛り上がるのではないでしょうか。
(5)「きちんとしなければ」という意識が強すぎて、選挙演説のような不自然なコミュニケーションになる
こちらは、面接が対話の場であることを忘れ、「優等生的な内容をいかによどみなく話せるかが試される場」と誤解している法科大学院修了生に多く見られるパターンです。
この種のパターンでは、応募者は生徒会の選挙演説のような口ぶりで持論を堅苦しく展開し、面接官は演説が終わるのを退屈そうに待っているという構図になってしまいます。普通の対話を求めているのに、演説調で持論を押し出して来る人に対しては、「会話のキャッチボールがうまく行かない人」、「一方的に話して来る人」という印象を抱きがちですので、コミュニケーション能力の欠如というネガティブな評価に繋がりがちです。『面接は対話の場である』ことを再確認する必要があります。
(6)過度な緊張を見せてしまい、社会性を疑われる
面接時に過度な緊張を見せてしまい、しどろもどろな発言、不審な挙動などから社会性・胆力を疑われ落選となる方は少なくありません。面接に不慣れであること、ビジネスパーソンと対話した経験が少ないこと、そもそも司法試験受験中は“知らない人と対話する機会”が激減することなどが理由として考えられます。
しかし、就職活動を行う法科大学院修了生と同年齢のビジネスパーソンが他社の商談に行って、過度な緊張からしどろもどろになるということは、まず、考えられませんので、シビアな言い方にはなりますが、「過度な緊張を見せている」という一事で、大きく面接評価を下げてしまうと考えた方がよいと思います。
➊よそ行きの自分で勝負しようとしない(その場しのぎは通用せず、これまで積み重ねて来た地力しか評価されないと悟る)
➋面接官から一方的に「見られている」という意識から離れ、自分も企業・面接官を見極めるのだという意識を持つ
➌面接選考では、相性の問題は多分にあると割り切る
この辺を意識して、とにかく普段通りの自分を面接で出せるよう努めてみるとよいと思います。
また、ビジネスパーソンと対話する機会を多く設けることで、面接の非日常感は薄れて行きますので、企業内での派遣・アルバイト・インターン等の経験を積むのも有効だと思います。
(7)聞かれた質問に淡々と答えるだけでアピールの方向性が見えない
面接官から聞かれた質問に対し、ご自身に関する事実を淡々と答え続けるパターンです。事実・本音をベースとした回答を行っている点は誠実でよいのですが、「どういう人間と思われたいか」というビジョンがないままに、回答を繰り出しているため、アピールの方向性がぼやけ、面接官からしますと「真面目に質問に答えてくれるいい子だったけど、いまいち印象に残らない」という評価となるケースが多いです。
まずは、「どういう人間と思われたいか」というビジョンを定めること。その上で、そのような印象を与えるためにどのようなエピソードを披露したらよいかを練り、回答の中にうまく織り交ぜて、アピールの方向付けを行うことが大切になります。
(8)求人内容とのミスマッチを伺わせるトンチンカンな回答をしてしまう
これは、法科大学院修了生が「法務以外の職種の求人」又は「法務以外の業務も含まれた求人」に応募する際に多く発生するのですが、
・「法務以外の職種の求人」にも関わらず、「法務」への意向の強さを押し出してしまう
・「法務以外の業務も含まれた求人」にも関わらず、「法務」にしか関心がなく、他の業務には関心がないように振る舞う
というパターンに分かれます。いずれも、求人とのミスマッチを感じさせるため、面接官から見て、非常に印象が悪いと思います。
長年、法律を勉強されて来た法科大学院修了生の中では、「法律関連の仕事>法律が絡まない仕事」という優劣の図式が無意識にあると思いますが、企業側からしますと、そうした優劣は全くなく、「法律関連の仕事」も「法律が絡まない仕事」も、等しく重要なものと位置付けています。そのため、応募して来たからには、「法律が絡まない仕事」に対しても、強い意向・関心を持っていて欲しいと考えるのが通常です。
「法務以外の業務も含まれた求人」に応募の際には、事前に仕事内容を把握し、情報収集する中で、しっかりとモチベーションを築いてから面接に臨むべきだと思います。
(9)就職後のビジョンがなく、何がやりたいかわからない、フラフラした人材と評価されてしまう
法科大学院修了生の中には、「働くこと」と向き合わないまま、惰性で就職活動を始めてしまう方が少なくありません。すなわち、「就職して何がやりたい」、「ビジネスパーソンとしてどうなりたい」というビジョンはないものの、「世間の目・家族の目などを考えて就職活動を行う」パターンです。
しかし、法科大学院修了生が応募するポテンシャル採用枠においては、“やる気があること”が、選考上大きなウェイトを占め、「働く意欲があること」、「強く働きたいと思っていること」を伝えないことには、内定を獲得するのは困難になります。
これは、面接前の準備というよりは、就職活動を開始する時点でぜひ行って欲しいことですが、まずは、ご自身が司法試験合格を目指した理由と向き合いながら、これから、何を成し遂げ、どんな人間になり、どんな人生を送りたいかのビジョンを描くところから始める必要があります。
(10)面接官が部屋に入って来たにも関わらず椅子から立たない
応募者が先に面接室に通され後から面接官が入室して来るケースで、椅子に座ったまま会釈をする法科大学院修了生が少なからずおります。こちらは、よくある一発アウト事例になります。
(実際、椅子から立たなかったことを理由に即座に落選を決めたと話す人事担当者の方に複数名お会いしたことがあります。)
この場合は、立ち上がって挨拶をし、座るよう促されるまで起立しているのが一種のマナーになりますので、面接官の姿を見たら、すかさず立ち上がるようにしてください。
(11)面接開始時間のはるか前に来訪し、採用担当者を困惑させる
早く到着する分には問題ないと考え、約束の時間の15分以上前に受付を訪問してしまうパターンです。企業側は、面接前に長時間、応募者を待たせることを想定していないことがほとんどですので、どこで待機させたらよいか等、持て余す可能性があります。
面接官の受け取り方次第という面もあるため、明確に何分前がベストということは出来ませんが、目安として、「7~10分前」に受付を行うのがよいのではないでしょうか。
ただ、高層ビルに入っている企業(特に、面接開始時間と他の従業員の出社時間が重なるとき)などは、受付からエレベーターに乗るまでに時間がかかってしまうケースがありますので、その点も踏まえて時間を調整する必要があります。
(ちなみに、早めに会場周辺に到着する分には何の問題もありません。)
(12)面接開始時間が過ぎてから遅刻の連絡をする
電車の遅延、道に迷った等の理由でどうしても面接開始時間に遅れてしまうケースもあり得るかと思います。その際、1秒でも早く到着することを優先した結果、面接開始時間が過ぎてから遅刻の連絡を行う方がおります。
しかし、全力疾走をして面接開始時間が過ぎてから遅刻の連絡を行うくらいであれば、先に遅刻する可能性を伝えつつ、小走りで面接会場に向かった方が、ビジネスマナー上、はるかに心証が良いですので、少しでも遅刻の可能性がある場合には、早めにその旨を企業側に伝えるのが得策です。
(13)逆質問で平均残業時間、年間休日、有給取得率等に関する質問ばかりを繰り出す
誰にとっても応募先企業の就業環境は、大きな関心事だと思いますが、そのためか、やたらと、残業時間、年間休日の日数、有給取得率等、プライベートの充実に関する質問ばかりを行う法科大学院修了生が少なからずおります。
しかし、『法科大学院修了生がホワイト企業に入社する方法』でも取り上げましたが、こうした質問は、採用担当者が嫌うNG質問の代表例となっています(就業環境に自信のあるホワイト企業の採用担当者もこうした質問にはウンザリしていると言います)。
そのため、こうした質問を繰り返した場合には、「あまり頑張りたくない応募者」というネガティブな評価に繋がるおそれがあります。ましてや、法科大学院修了生が応募するのは、“やる気があること”が選考上大きなウェイトを占めるポテンシャル採用ですので、一層、このリスクは高まると言えます。
この種の質問は、“やる気があること”を十分に伝えた上で行う又は内定獲得後に確認するのが得策だと思います。
(14)逆質問で「それを聞いてどうするのだろう?」といった、意図の見えにくい質問をしてしまう
過去に、法科大学院修了生向けの企業説明会に立ち会った経験が何度かありますが、その際、意図の見えにくい質問をしている法科大学院修了生が多数見られました。
企業内においてはそれぞれの社員が仕事を抱えているため、他の社員と仕事上のコミュニケーションが出来る時間はとても貴重です(自分の質問に答えてもらうために相手の仕事の手を止めてもらうことになります)。そして、その貴重な時間で行われる質問は、「質問に対する回答によって判断のアルゴリズムが変遷するもの」でなくてはなりません。
すなわち、「回答がAであれば自分の下す判断が●●に変わり、回答がBであれば自分の下す判断が■■に変わる」という種類の質問でなければ、回答者の時間を無駄に浪費したとみなされるということになります。
だから、まずはご自身の中で質問の意図を明確にした上で、回答者に対し、どういった意図で自分が質問をしているのかを伝えつつ、質問を行う必要があります。
例えば、面接中に面接官から唐突に足のサイズを聞かれたら、「何の意図でそうした質問をされているのか」とモヤモヤすると思います。さらに、足のサイズを答えたにも関わらず、「ありがとうございました。」とだけ言われ、結局、意図がわからないままだったとなると、一層モヤモヤするのではないでしょうか。意図が見えにくい逆質問を受ける採用担当者も同じような気持ちになっているとお考えいただくとわかりやすいと思います。
・「回答がAでもBでも、自分の判断が特に何も変わらない逆質問」はしない
・逆質問の際は、質問の意図をしっかりと伝える
逆質問の際は、ぜひ、この2点を意識してみてください。
(15)逆質問を促されているにも関わらず、ほとんど質問が出来ず、志望度の低い人材と評価されてしまう
法科大学院修了生の中には、面接官から逆質問を促されているにも関わらず、ほとんど質問をしない方がおります。逆質問には、
➊「志望度≒興味関心の強さ」を伝える
➋入社するか否かを判断する上で必要な情報を得る
という側面がありますので、特に➊の観点から、逆質問が少ない場合には、自社への志望度の低い応募者なのではという疑念が生じ、選考上不利に働く可能性があります。
それでは、逆質問がうまく出来ない原因はどこにあるのでしょうか?これは、単純に準備不足、より具体的に言いますと、「企業研究不足」と言えます。
事前に、応募先企業がどんな事業を行っているか、応募先企業の業界がどう変わりそうで、それに対して応募先企業がどのような手を打とうとしているのか、同業他社はどの会社で、そこと比べて何が強みで逆に何が弱みなのか、どんな社風の会社なのか、入社後どんな仕事を任せてもらえるのかなどを調べていれば、必然的に「入手できない情報」、「ネット上等に一応の情報はあるものの、あやふやな情報」が出て来ますので、それを逆質問の機会に確認するという流れになります。
もちろん、面接官の属性によって、質問を行う相手としての適否がありますので(経営面の質問は役員に質問するのが最適ですし、具体的な業務内容についての質問は人事ではなく、現場→法務の方に質問するのが最適だと思います)、「この質問を目の前の面接官に聞くべきなのか」という観点からの精査も併せて必要になります。
これらを踏まえた上で、一つの面接で最低でも5個、出来れば10個は逆質問を用意して面接に臨むことをお薦めしております。
本日は、弊社の持つ、数万件の法科大学院修了生の面接結果データを元に、法科大学院修了生の面接失敗パターンを紹介しました。よろしければ、面接前のチェックシート代わりにご活用ください。
【筆者プロフィール】
齊藤 源久
法科大学院修了後、大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。
2014年より、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。前職での採用責任者の経験・長年の法務経験・司法試験受験経験などを生かし、法科大学院修了生の就職エージェント業務、企業の法務部に派遣する法科大学院修了生向けの法務実務研修の開発・実施などを担当している。
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