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就職ノウハウ

法科大学院修了生の就職先選びと親世代の助言

Q.【ブログ記事】「親が喜ぶ」という尺度で就職先を決めるべきでない理由

A.

法科大学院修了生の中には、就職先を選ぶ際に親の意向を重視する方が少なくありません。

そこには、「社会人である親の方が社会を知っている」という思い、長年司法試験受験を支えてくれたことへの負い目などが関わっているのだと思います。実際、

 

『今まで好き勝手させてもらったので、せめて就職先を選ぶときくらいは親の意向を入れたい』

 

と公言されている方もおられます。

その一方で、特に学部新卒の就職市場では、親の意向を反映しての応募辞退・内定辞退などを指す「親ブロック」が問題視されています(NAVERまとめ】いま、就活生を襲う「親ブロック」が問題に…)。

本記事では、法科大学院修了生が就職先選びにどのくらい親世代の助言を考慮に入れるべきかを考察して行きます。

 

 

親世代の価値観

まず、法科大学院修了生の親御さんは、どのような価値観・状況把握に基づいて就職先の助言を行っているのでしょうか。よく伺うのは、以下のような話です。

 

 

・せっかく、いい大学・大学院を出たのだから、それに見合った格の高い会社に就職して欲しい

 

・「法曹」から方向変換するのであれば、方向変換の甲斐があったと感じられるような格の高い会社に就職して欲しい

 

・苦労をして欲しくないので、出来るだけ安定した会社・業界に就職して欲しい

 

・世間体があるので、世間からのウケの悪い業界の会社には就職しないで欲しい

 

 

つまるところ、『企業には、規模・知名度・評判などを元にした「偏差値」があり、子供には偏差値がより高い就職先に就職して欲しい』という価値観に基づいて助言が行われるケースが多いということだと思います。

そして、そこには、旧来のキャリア観・仕事観・ビジネス環境の影響が色濃く感じられます。

 

すなわち、一度就職してしまえば定年まで面倒を見てもらえる「終身雇用」や、実力差にそれほど左右されずコツコツと一社で頑張り続けていれば役職や賃金が上がっていく「年功序列」、在学中の学生を特定の時期に選考して内定を出し卒業後にそろって入社させる「新卒一括採用」などを前提としたキャリア観が親世代からの助言の背景にあるということです。

こうした旧来のキャリア観においては、一社目で入る会社=人生そのもの、会社の“格”=自分自身の“格”⇒“格”が高い会社への就職=成功という図式が成立しやすいところがあると思います。

また、親世代では、仮に“格”の高い会社に就職できなくても、ひとまず「モノづくりメーカー」に入社しておけば手堅いという考えの方が少なくありませんが、それも、経済や社会制度が十分に発展する前の社会、つまり、自由で便利な生活のために必要な物やサービスが普及し切る前の“非成熟社会”、を念頭に入れての考えなのだと思います。

その意味で、多くの親世代が子供を心配して行う助言は、ここ数年で日本社会に起きている大きな時代変化を念頭に入れないままに行われているものである可能性が高いと考えています。

 

 

ビジネス環境の変化

近年、国や経済界の様々な施策の実施により、大きくビジネス環境が変化しており、それに伴い、ビジネスパーソンはキャリア観・仕事観の変更が迫られています。

例えば、雇用形態ではなく能力や経験・企業の業績に対する貢献度で待遇を決めようという「同一労働同一賃金」の導入、優秀層の確保・ビジネス環境の変化への中途採用人材の積極活用による対応を目的とした「新卒一括採用の廃止」、企業による「副業奨励」の動き、定年の後ろ倒し・人生100年時代の到来に伴う「就業年数の増加」などが挙げられます。

 

また、消費社会の成熟化も見逃せません。

 

 

「成熟社会では、大量生産品がだんだんと製造されなくなってきています。

日本でも、家電メーカーの一部は海外資本となり、冷蔵庫やテレビは、海外製に変わってきていますね。

では成熟社会で今後どうなるかというと、個々に合わせてカスタマイズされた製品がつくられていきます。」

 

出典:NRI JOURNAL 大量生産ものづくりからの脱却となる「Industry4.0」

 

 

かつての、自由で便利な生活のために必要なモノが普及し切る前の“非成熟社会”では、消費者のニーズが明確であったため、「自由で便利な生活のために必要なモノ」を生産すれば生産するだけモノが売れた大量生産・大量消費の時代でした。そのため、愛社精神が強く能力的に平準化されたジェネラリスト社員にコツコツと長く働いてもらうことこそが、安定的かつ効率的な生産という観点で、企業にとっての理想的な組織モデルになっていました。

しかし、“成熟社会”では、上述のように、消費者個々人の潜在的なニーズを探し当て、個々にカスタマイズしたモノを提供する必要があります。そして、それに伴い、企業が求める人材や企業が理想とする組織モデルも大きく変わって来ています。

近年、終身雇用や年功序列制度が崩れてきている大きな要因の一つが、この消費社会の成熟化とも言われています。

 

これらに加えて、PCでの事務作業を自動化できるソフトウェアロボット「RPA」の導入促進や、高度な判断業務を代替するといわれる「AI(人工知能)」の進化なども、今後のビジネス環境を大きく変えるファクターとなって行くと見られています。

 

 

ビジネス環境の変化を受けて、どのように就職先を選ぶか

では、こうしたビジネス環境の大きな変化を受けて、法科大学院修了生はどのように就職先を選べばよいのでしょうか。

一つ明確なのは、今後、「実力主義社会」の色合いがどんどん濃くなって行くということです。

ビジネス環境の変化により、

 

・雇用形態が正社員でなくても実力に応じた賃金が支払われる

・新卒であっても実力があれば高い年収が提示される

・実力がある人には副業を通じて複数の企業から賃金が支払われる

 

といった未来がすぐそこに来ていますが、企業が支払える賃金の原資に限りがあることを考えますと、誰かに支払う賃金を増やしたら、他の誰かに支払う賃金を減らさなければならなくなるということになります。すなわち、実力がなければ、従来、同じくらいの実力の人がもらっていた賃金よりも低い賃金しかもらえなくなるということです。

 

さらに、RPAやAIなどの技術革新により、かつて人間が行っていた業務が代替されていくと、企業が雇用すべき人の数自体が減っていくことが予想されます。

 

極論、少なくなった「人間でなければ出来ない仕事」を実力主義の原理下で、多くのビジネスパーソンが奪い合うという未来が訪れても不思議ではありません。

 

そのため、これから訪れるビジネス環境では、一にも二にも、たしかな「実力」を備えたビジネスパーソンになることが求められます。そして、就職先を選ぶ上でも、どこに行けば「実力」を伸ばすことができるかという観点が重要になってくると考えられます。

 

では、「実力」を伸ばすことができる会社とはどんな会社でしょうか。

「実力=会社に貢献する力」と定義するなら、会社への貢献に対する当事者意識を持ちながらトライ&エラーを繰り返せる会社、すなわち、月並みな言い方にはなりますが、『大きな責任と裁量を持たせてくれる会社』、そして、『トライ&エラーを繰り返すためのモチベーションが持てる会社』こそが、皆さんの「実力」を伸ばすことができる会社と言えると思います。

逆にいうと、「自分の仕事がどう会社の役に立っているのか、よくわからない」、「前例や定められた手順に忠実にしたがって進めるだけでできてしまう仕事ばかり」、「前例や定められた手順から外れることは許されない」といった環境下では、真の意味での「実力」を伸ばして行くのは難しいかもしれません。

 

インターネット社会の醸成、上述のRPAの発達・浸透により、何かを覚えていること、何かを手順どおりに正確にできることの価値はどんどん下がって来ています。

そのため、これからの時代の就職先選びでは、「正解(前例や定められた手順)のない問いに高いモチベーションで挑み続けられる会社か否か」の見極めが何よりも大切になって来そうです。

 

そして、“高いモチベーションで挑み続ける”という観点では、まず、将来のビジョンを持ち、目の前の仕事を、そのビジョンとの関係で意味づけできる必要があると考えています。

関連して、DeNAの南場智子会長が示唆に富んだお話をされていたので、以下に引用します。

 

 

就活は、初めて偏差値がない、大きな意思決定ですよ。

中高大と偏差値という尺度の中で自分の手が届く一番いいところを選んできたと思うけれど、それはすべて他人の尺度。

他人の尺度で選択している限り、あなたはあなたの人生を生きているとはいえません。

職業選択は初めて、他人の尺度から解放されるチャンスです。

絶対に「親が喜ぶ」とか「友達にドヤ顔できる」という尺度で就職を決めないでほしい。

自分が夢中になれるものは何か、自分の心に聞いてみてください。

 

出典:日経電子版 「トップ女性起業家の後悔 自分の尺度で生きるの遅れた」

 

 

他にも、就職活動を終えたばかりの女子大生が書いた記事ですが、とても良い記事でしたので、一部抜粋します。

 

 

起業にしろ、大企業にしろ、ベンチャーにしろ、市場価値にしろ、業界にしろ、どれも手段です。

「他人の評価」を求める限りいつまでも虚しい それに、どの道を選んでも、「すごい」と讃えられているのは 皮肉にも「すごい」と言われたかった人ではないんです。

自分なりの幸せを叶えるために、その手段をうまく使った人なんです。

起業した人が偉いわけでも、ベンチャーにいく人が偉いわけでもないし、 大企業にいく人が偉いわけでもなんでもない。

どの選択をとっても、「他人にいかに評価されるか」で選んでいる限り、誰からも認められません。

そしていつまでも「虚無感」に襲われます。

だから、自分だけは、自分を認められるように、 手段をどれにするか頭でっかちに悩む前に、もっと、考えてほしいんです。 悩むのではなく、考えるのです。

自分にとっての幸せってなんだろう?そんな自問自答を重ねてください。

 

出典:note 「すごい」と言われるのは「すごい」と言われたかった人じゃない

 

 

いずれの記事も、就職先を偏差値で捉えず、まずは自分自身の幸せ・やりたいこと、すなわちビジョンを持つことの重要性を説いています。

これまで手厚い支援をしてくれ、たくさんの心配をかけた親を安心させたいという思い、それ自体はとても尊いものだと思いますし、ぜひその分の親孝行で恩返しして欲しいと思いますが、そのために、親から伝えられる旧来のキャリア観・仕事観・ビジネス環境を元に、盲目的に偏差値でご自身の就職先を選ぶのは少し違うと思います。

 

進路選びで親孝行をするのではなく、ご自身のビジョンに向かって生き生きと働ける会社で働きながら、親孝行・恩返しをして行くというのが、あるべき姿なのではないでしょうか。

就職先選びで悩まれた際にご参考にしていただけましたら幸いです。

 

 

この記事を読まれた方は、ぜひ下記の記事も読んでみてください。

『終身雇用の終焉と法科大学院修了生の就職先選び』

『応募先企業の選定方法』

 

 

 

【筆者プロフィール】
齊藤 源久

法科大学院修了後、大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。

2014年より、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。前職での採用責任者の経験・長年の法務経験・司法試験受験経験などを生かし、法科大学院修了生の就職エージェント業務、企業の法務部に派遣する法科大学院修了生向けの法務実務研修の開発・実施などを担当している。

 

 

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