法科大学院修了生が応募書類作成時に避けるべき文章パターン
Q.履歴書・職務経歴書の文章を作成する上で気を付けるべき点を教えてください。
A. 多くの法科大学院修了生が就職を希望する“法務職”の選考において、「文章力」を重視する企業は少なくありません。契約書の作成や法律相談への文書回答など、“法務職”において、文章を作成する機会が多いためです。本記事では、応募書類に記載する文章を作成する際に、法科大学院修了生が特に気をつけるべきポイントを解説します。 × 「~たり、~たりしました。」 採用担当者が普段目にしているのは、ビジネスパーソンが書く、大人っぽさが強調された文章です。そんな中で、幼い表現が多用された文章を目にしてしまうと、社会人経験の浅さが強調されてしまうおそれがあります。応募書類作成時は、まず、“文章の大人っぽさ”を意識して、文章を書いてみるとよいと思います。 (例)私は、モノ作りを行う会社を支えたいと考えています。 試験の世界とは異なり、ビジネスの世界では正解のない問いに溢れています。そして、その中で重要視されるのは、「正しいこと」ではなく「説得力があること」です。そのため、自らが発する全ての意見に対して、説得力のある理由が必要です。 上記の事例で言いますと、普通に生きていて、通常、いきなり「モノ作りを行う会社を支えたい」という心持ちにはなりませんので、どんな体験を経て、どんな情報に触れて、そのような心持ちになったのかの説明が必要になります。 (例)人の役に立つ会社に行きたいetc. 上記②と同様の観点になりますが、自分自身の主張に説得力を生むのは「話の具体性」です。具体的に話せる人は、本気の人、本気でそのように考えている人が多いからです。逆に、抽象的な話しか出来ない人は、どこかで聞きかじったこと、本で読んだだけのことを咀嚼することもなく、何となく書き並べていることが少なくないと思います。ご自身の主張に説得力を持たせるために、記載する話の具体性を上げる必要があります。 (例)私はコミュニケーション能力が武器です。 法務においては、他部署との連携の必要性からコミュニケーション能力が不可欠で…以下略 単に「武器です」と言うだけであれば、本当はコミュニケーションが苦手な人でも書けてしまいます。「私はコミュニケーション能力が武器です」という文章に説得力を持たせたければ、コミュニケーション能力を培った具体的なエピソード、コミュニケーション能力を実際に武器として発揮した具体性なエピソードが必要です。 (例)塾講師のバイトで生徒やその親と接して来たことで、 上記事例でいうと、一般的に、塾講師を行うだけで高度なコミュニケーション能力が身に着くと考える人は、正直少ないと思います。 そうした出発点から、「高度なコミュニケーション能力を身に着けた人材」という心証を形成するためには、今一歩踏み込んで、どういう体験から、通常の塾講師バイトで身に着くコミュニケーション能力を超える、高度なコミュニケーション能力を得るに至ったかを説明する必要があります。 逆に、そうした説明が不十分な場合には、「自身の行為・能力を過大に評価している」というネガティブな評価に繋がるおそれがあります。 (例)私は長年、司法試験の勉強を通じ、法律専門性を磨いてきた。 法務の仕事は高度な法律専門性が求められる仕事である。 司法試験の論文や裁判所に提出する書類、官公庁などが出す公的な文書では“である調”が一般的な書き方であることから、応募書類でも“である調”を使用される方がたまにおります。もちろん、“である調”だから絶対にダメということはないのですが、採用担当者=ビジネスパーソンが普段目にする文章の大多数は“ですます調”になりますので、社会人経験のない法科大学院修了生が、それとは異質な“である調”の文章を書いてきたときに、「社会性がない」、「少し上から目線」という誤解を与える可能性があります。 (例)私は司法試験の学習を通じて、事案を的確に分析し問題点を抽出するスキルを身に着けました。 こうした私のスキルは、法律相談に活かせます。 実際にそのスキルを企業で活かした経験がないのに、「活かせます」と断定してしまうと、他意はないにも関わらず、いくぶん、傲慢で世間知らずな印象に繋がるおそれがあります。「活かしたい」といったニュアンスに留める方がよいと思います。 (例)・並列でない別の概念を「また」で繋いでいる ・前の文章と並列の関係にない文章を「そして」で繋いでいる (例)「そして」、私は人を大切にする企業で働きたいと「考えています。」 同じ表現が繰り返されてしまうと、読みづらく、文章のクオリティが低いような心証を受けます。 (例)私がキャプテンに就任してからは、「ほとんど」、退部した部員はいません… 断定口調でアピールを行うことに気が引けてしまうのか、上記事例のようなぼやけた表現を行う方が少なくありません。しかし、自分をアピールしたい場面で、自ら遠回しでぼやけた表現を用いる必要はないと思います。 例えば、「私がキャプテンに就任してからは、例年●割ほどいた退部者が●割に減少しました。」といった形で、解釈の余地のない明快な表現を心がけると、読み手が読んでいても気持ちのよい文章になると思います。 法律知識がないと理解できない単語、特定コミュニティ内でしか使用されていない単語などを当然理解できるものとして使用してしまう事例が多々見られます。こうした記述は、 「入社後も、法律相談時に、けむに巻くかのように専門用語を並べ立てた回答をされるのでは…」という懸念を抱かせるおそれがあります。 (例)貴社はタイにも支社を持っておられます。以上のことから(以上により・したがって)、 貴社はグローバル展開に力を入れたアグレッシブな企業と感じました。 いわゆる「規範→当てはめ」の“当てはめ”部分が薄いケースです。文章の説得力が損なわれてしまうのがネックとなります。 (例)私は、正社員ではないのですが、アルバイトとして~を行っております。 ストレートにアピールを行うことに、心地悪さを感じるためか、あえてアピールを薄める表現を加える方が少なくありません。しかし、不要な情報を混ぜることで、かえって文章が読みづらくなりますし、書類に書かれたことだけで評価される書類選考において、変な謙遜は不要ですので、事実を明快に記載した方がよいと思います。 司法試験の論文を書き慣れているためか、「ビジネスとは」、「法務とは」といった壮大かつ抽象的なテーマを、抽象的な文章で長々と語る法科大学院修了生が少なくありません。こうした記述は、どこか教科書的で読み手を退屈にさせ、読み手から読み飛ばしにあうリスクを高める要因となります。また、やや上から目線の印象を与える点もネックになります。 上記を振り返りますと、国語力の問題と言える内容も多いかと思います。一般的に文章力が高いイメージのある法科大学院修了生ですが、司法試験の論文では、時間的な制約から、国語的な正しさよりも、「この論点に触れられたか」、「この事実に触れられたか」という点がより重視されるからか、国語的な正しさを重視せずに文章を書く癖が染みついてしまっている方が相当数おります。 1 綺麗な文章をいくつか書き写してみること これらが有効だと言われています。未経験から企業に応募するというハンデを乗り越える上でも、文章力の部分では、経験者には絶対に負けたくないところです。 今回の記事を参考に、ぜひ、国語的な正しさを重視した文章を書きあげることを意識してみてください! この記事を読まれた方は、ぜひ下記の記事も読んでみてください。 【筆者プロフィール】 法科大学院修了後、大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。 2014年より、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。前職での採用責任者の経験・長年の法務経験・司法試験受験経験などを生かし、法科大学院修了生の就職エージェント業務、企業の法務部に派遣する法科大学院修了生向けの法務実務研修の開発・実施などを担当している。 避けて欲しい書き方14例
①幼い表現が多用されている
〇 「~を行い、加えて~するなどしました。」②主張はあるけれど理由がない
③内容が抽象的過ぎて、事実上何も主張していない
④アピールがエピソードにより裏付けられておらず、説得力に欠ける
⑤裏付けとなるエピソードが根拠として不十分
高度なコミュニケーション能力を身に着けました。⑥“である調”の使用
⑦こうした私のスキルは~に活かせます
⑧接続詞の使用方法がおかしい
⑨同じ接続詞や同じ語尾が繰り返されている。
「そして」、社員の皆様の活躍を法務という立場から下支えしたいと「考えています。」⑩無意味な遠回しな表現
⑪一部人間にしか理解できない単語を使用している
⑫それほど論拠も示していないにも関わらず、大げさな形で文章を締めている。
⑬無意味に謙遜のためにネガティブな表現を入れ、冗長な文章となっている。
⑭ビジネスとは、ビジネスで必要になるのはetc.といった説法を繰り返している。
終わりに
しかし、「法務職」は、基本的に「誰が読んでも齟齬のない文章を書くこと」が仕事です。
そのため、法務担当者が応募書類を見る際は、正しい日本語で論理的に破たんのない文章が書けているかを厳しく見られます。
文章力を上げるためには、
2 自分が書いた文章を何度も推敲する癖をつけること
齊藤 源久