企業就職を目指す法科大学院修了生の大多数が志望する「法務職」。この法務職において、近年求められる人物像のトレンドに大きな変化が生じています。本記事では、こうした法務人材ニーズの変化を解説しつつ、法科大学院修了生が当該ニーズの変化にどのように対応して就職活動を行うべきかを考察して行きます。
企業が求める法務担当者像の変化
上述のように、企業が法務担当者に求める人物像イメージに、近年大きな変化が見られます。従来型の法務担当者像と今のトレンドとして求められている法務担当者像を対照すると以下のようになります。
従来型の法務担当者像
・法的な観点をとにかく重視して判断する
・法律専門家という立ち位置で一歩引いたところからのアドバイスを「法務の仕事」と定義している
・契約書審査等の際には、法律文書としての形式面の正しさに強くこだわる
・法律知識がない現場担当者を少し低く見ている
近年求められている法務担当者像
・法的な観点のみならず、ビジネス上の観点も加味しながら良い落としどころが見つけられる
・ビジネスを進める当時者として、現場担当者と二人三脚で仕事を進める意識がある
・法的効果に影響のない「てにをは」の文言修正には極力時間をかけず、法的リスク・ビジネス上のリスクの洗い出しや代替案の検討に時間を割く
・法律知識がない現場担当者とフラットで良好な人間関係を構築できる
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簡単にまとめますと、「法律博士的な立ち位置で専門家然として仕事を進める人物像」から、「ビジネスへの当事者意識を持ち、現場担当者と協働できる人物像」に企業のニーズが変化して来ているということです。
法務担当者像の変化の背景
では、こうした変化はどうして生じたのでしょうか。
普段、人事担当者の方のお話を伺う限り、一因として、法務業務量、特に契約書審査や契約書作成などの「契約法務の業務量」の増加が挙げられています。
すなわち、[現場担当者]・[法務部門]、そして[取引先]の3者が絡む業務が増え、法務部門が意味があるとも思えないブレーキをかけて取引を停滞させ、取引先にまで迷惑をかける場面が目立ち始めたことから、現場サイドが従来の法務担当者の在り方を問題視し始めたという背景があるようです。特に頻繁に耳にする問題事例は以下のようなものです。
・契約書審査に異様に時間をかけ、契約締結を遅らせた結果、新規事業のスタートが遅れ、ビジネスチャンスの逸失に繋がった
・抽象的なリスクを指摘するのみで、具体的に何を危惧して契約書を修正しているのかが不明瞭で、一向に[現場担当者]が[取引先]との交渉に入れなかった
それだけ、取引における法務担当者の存在感・重要性が高まっていると言えますが、その一方で、[現場担当者]と[法務部門]との温度差が顕著になっているという言い方も出来ると思います。そして、近年は採用時でも、「従来型の法務担当者像」と重なる人物特徴を持つ応募者は敬遠される傾向にあります。
法科大学院修了生は、法務担当者像のトレンド変化にどう対応すべきか
では、こうした変化に対し、就職活動中の法科大学院修了生はどのように対応すべきなのでしょうか。
まずは、採用担当者から「従来型の法務人材」とみなされないことが重要になります。
【従来型の法務担当者像と重なる人物特徴】
・とにかく法律が大好きでビジネスへの関心が低い
・企業の一員としての意識が低く、外部専門家然としている
・法律知識があることにプライドがあり、すぐに知識をひけらかす
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その意味では、ご自身の法律への愛を強く打ち出し過ぎるのはネガティブな評価に繋がる可能性が高いですし、これまで目指して来た法律専門家と法務担当者との線引きがあいまいなままに面接に臨んでしまうと、「企業の一員となる意識が低い人材」とみなされるおそれがあると思います。また、面接中に、配慮なく法律専門用語を多用した場合には、「法律知識をひけらかす人材」という悪印象を与えてしまうことが懸念されます。
逆に、ビジネス全般や応募先企業の行う事業への興味関心を示せる応募者、多様なバックグラウンドの人と仲良くやっていけそうな応募者、難解な概念を簡易な表現で説明できる応募者などは、「ビジネスへの当事者意識を持ち、現場担当者と協働できる」法務担当者へと成長することが期待できますので、企業からの採用確率も上がると思います。
こうした法務担当者像のトレンド変化を意識しながら、書類や面接を通じて、どういったイメージを企業側に与えて行くか、改めて、イメージ戦略を練ってみてはいかがでしょうか。
【筆者プロフィール】
齊藤 源久
法科大学院修了後、大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。
2014年より、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。前職での採用責任者の経験・長年の法務経験・司法試験受験経験などを生かし、法科大学院修了生の就職エージェント業務、企業の法務部に派遣する法科大学院修了生向けの法務実務研修の開発・実施などを担当している。
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