法務の転職市場が売手市場となっている昨今、法科大学院修了生が応募できる求人数も着実に増えています。
その一方で、選択肢があるがゆえに、どの企業に応募したらよいのかで悩んでしまう方も少なくない状況です。
本記事では、法科大学院修了生が求人のどの点に着目して応募の有無を決めればよいかを考察して行きます。
就職先に「偏差値」はない
毎年、数百名の法科大学院修了生の就職相談に乗っていますが、司法試験時代の厳しい受験戦争のなごりからか、就職活動について「偏差値の高低」で考える方が多数おられます。
すなわち、各企業ごとに偏差値による評価の高低がある前提で、偏差値の高い企業に入社したら成功、低い企業に入社したら失敗という価値観のもとに就職活動を行っている方々です。そして、こうした場合、偏差値の高さは、総じて、「入社したときに得られるステータスの高さ」と「見栄え上の安定感」をもとに判断されていることが多い印象です。
そのためか、多くの法科大学院修了生において、応募先企業を選ぶ際、「よりエリートっぽい選択肢」、「安定のイメージのある選択肢」を優先して選ぶ傾向があります。
しかし、就職先に偏差値はありません。
各人の中に、『どんな人生を送り、人生の中で何を成し遂げ、どんな人間になりたいか』といったライフビジョンがあり、そのライフビジョンを成し遂げる上で、「近道となる選択肢」と「遠回りとなる選択肢」があるに過ぎません。
例えば、超大手企業の法務担当者というポジションは、多くの法科大学院修了生が憧れる、いわゆる偏差値の高い選択肢の代表例ですが、ソフトバンクの孫正義氏のような稀代の起業家になるライフビジョンを持っている方にとっては、そのライフビジョンを成し遂げる上で遠回りとなる選択肢と言えます。
ごく当たり前の話ですが、各人の描くライフビジョンによって、好ましい選択肢は異なるということになります。
そのため、まずは自らのライフビジョンを描くところから始め、そのビジョンの実現のためにどこに一歩を踏み出すのが適切なのかという観点で企業選びを行うことが重要です。
ちなみに、個人的な経験上、法科大学院修了生の中には、
・誰にも負けない専門性を備えて周囲に頼られたい
・独立したポジションで仕事をしたい
・縁の下の力持ちとして周囲に貢献し感謝されたい
といったライフビジョンをお持ちの方が多い印象です。その意味で『企業の法務部で働く』という選択肢は、多くの法科大学院修了生のライフビジョンに適った選択肢となり得ると考えております。
法務求人の選び方
以上を前提に、法科大学院修了生からの人気が高く、尚且つ、上述のように法科大学院修了生のライフビジョンに沿う可能性の高い「法務求人」の選び方について各要素ごとに考えていこうと思います。
➊企業規模
企業規模の大小は、法務キャリアにどのような影響を与えるのでしょうか。概ね以下のように整理できると思います。
[大規模な企業の法務]
まずは、大きな予算と多くの人が関わるような「スケールの大きなプロジェクト」に携われる機会が多いのが魅力の一つです。
また、大規模な企業には上場企業が多いと思いますが、上場企業においては、非上場企業と比べて、厳格に形式を遵守して株主総会を開催しているケースが多いため、「株主総会対応」の経験をしっかりと積みやすいというメリットがあります。
さらに、企業の採用担当者の一部には、「自社と同じくらいの規模感の企業で働いていた人の方が安心だ」という価値観で選考を行う方もたまにいますので、将来的に規模が大きな企業に転職を行う際にも、企業規模が大きい企業で働いた経験が生きる可能性があります。
[小規模な企業の法務]
法務の体制が整っていないケースが少なくないため、法務の「体制構築」の経験を積める可能性が高いです。体制構築においては、仕組みを作るというクリエイティブな側面があるため、単純に仕事に面白みを見出しやすいと思います。また、上場準備中の企業では、「上場準備」という付加価値の高い経験を積める可能性があります。さらに、マネジメント層の採用に苦戦する企業が少なくないことから、新規に人を採用する場面でも、ポテンシャル層や経験の浅いプレイヤー層を採用することが多く、早期にマネジメント経験を積める点も魅力になります。
➋業界
ご自身が興味関心のある商品・サービスに携わることで、仕事への満足感が高まるという方も一定数おります。そのため、ご自身の興味関心を元に、業界を選ぶやり方もあると思います。
また、業務面に目を向けますと、業界の違いにより、法務業務の内容や業務割合、扱う法令・契約書の種類等が異なるところがあります。そのため、どんな強みを持った法務担当者になりたいか、法務担当者としてどういった業務を重点的にやりたいかといった観点から業界を選ぶのも手だと思います。各業界ごとの法務業務の違いについては、下記のページで詳しく解説されていますので、ご参考になさってください。
➌部門構成
企業における「法務部門」の充実強化を目的とした団体、「経営法友会」では、部門に所属する法務担当者の数に応じ、法務部門の規模を以下のように分類しています。
・メガクラス法務部門(31名以上)
・大規模法務部門(11名以上30名以下)
・中規模法務部門(5名以上10名以下)
・小規模法務部門(4名以下)
企業規模に応じて、法務部門の規模も大きくなる傾向はありますが、一方で、東証一部上場企業で法務担当者が1名しかいないという企業も珍しくありませんので、一概には言えないところがあります。
一般的に法務部門の規模が大きくなればなるほど、専門性に特化した業務を割り振られることが多く、座学・研修を中心とした教育体制も充実する傾向にあります。その意味で、『少しずつステップを踏みながら、専門性を深く究めていく』というのが、一般的な大規模法務部門でのキャリアイメージになります。
一方で、法務部門の規模が小さくなりますと、良く言うと「幅広い業務を任せられる」、悪く言うと「色々な仕事をやらされる」ことが多く、短期間に幅広い業務経験を積める傾向にあります。また、教育という面では、一般的に、OJT(オンザジョブトレーニング)が中心となることが多いと思います。その意味で、『多数の実戦を切り抜ける中で、幅広い業務を身に着けて行く』というのが、一般的な小規模法務部門でのキャリアイメージになります。
本日は、応募先企業の選び方について考えて来ました。まずは、ご自身が成し遂げたいライフビジョンと向き合った上で、ビジョンを実現する上で、どんな規模感、どんな業界、どんな法務部門規模、どんな労働条件の企業に進めばよいのか、徹底的に考えてみると、長い目で見て満足度の高い選択が出来ると思います。ご参考にしていただけましたら幸いです。
【筆者プロフィール】
齊藤 源久
法科大学院修了後、大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。
2014年より、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。前職での採用責任者の経験・長年の法務経験・司法試験受験経験などを生かし、法科大学院修了生の就職エージェント業務、企業の法務部に派遣する法科大学院修了生向けの法務実務研修の開発・実施などを担当している。
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