新型コロナウイルス感染拡大の影響で、好況だった法科大学院修了生の就職市場にも徐々に陰りが見えています。これから仮に就職難が訪れた場合、どのように就職活動を進めて行けばよいのか、改めて考察してみます。
2020年9月時点での法科大学院修了生の就職市場
新型コロナウイルスの感染拡大は、各所に影響を及ぼしていますが、企業の景況感に左右されやすい就職市場においても、それは例外ではありません。
法科大学院修了生の多くが希望される法務職の求人数に目を向けても、法務求人の総数自体はおよそ10%減と、それほど大幅に減ってはいないものの、未経験から応募できるハードルの低い求人は半減している状況です。さらに、法務経験者の売手市場に陰りが見えて来ているからか、今までは法務経験者が応募せず、法科大学院修了生のみが応募していた求人にも法務経験者が応募して来るようになって来ており、法科大学院修了生と経験者がバッティングする機会が増えています。
そのため、法科大学院修了生の就職が徐々に難化している実感が確かにあります。
就職活動の本質に立ち返る
それでは、これから仮に就職難が本格的に訪れた場合、どのように就職活動を進めて行けばよいのでしょうか。
結論から申し上げると、就職難でもそうでなくても、やるべきことそれ自体は変わらないと言えます。ただ、就職難となると、選択肢が減るのは間違いないので、より「就職活動の本質」を意識して、決断し、行動する必要が出て来ます。
では、「就職活動の本質」とは何なのでしょうか?
多くの人は、“就職活動”と聞いたときに、応募書類の作成や面接対策・業界研究・企業研究・自己分析などをイメージされると思いますが、実は、それらは就職活動の成否を左右するという意味では、枝葉に過ぎません。
就職活動の成否を左右する幹となるのは以下の2つで、それこそが「就職活動の本質」なのだと思います。
(1) 自分の市場価値を高めること
(2) 自分の市場価値で勝てるフィールドで戦うこと
製造業に例えると、(1) 魅力的な製品を作ること、(2) 市場を分析して自社の製品の競争力で“勝てる市場”に繰り出すことといったところでしょうか。それに対し、上述した書類対策・面接対策などは、出来上がった製品を売り込むためにいかにプレゼンするかというフェーズのお話になります。しかし、採用担当者は、目の肥えた消費者なので、いくら上手にプレゼンしたところで、魅力的でない製品、他よりも魅力が落ちる製品は買いません。
書類対策・面接対策などは枝葉に過ぎないとお伝えした理由は、この辺りにあります。
(1) 自分の市場価値を高めるために出来ること
では、就職活動の本質である「自分の市場価値を高める」とはどういうことでしょうか?
それは採用する側の評価基準を知った上で、評価を高めるための経験を積んだり、スキルを高めることに他なりません。
例えば、法科大学院修了生の法務就職においては、
・派遣やアルバイト等で法務実務経験を積むこと
・法務でないにせよ、企業内での就業経験を積むこと
・英語力を高めて、TOEICのスコアを上げること
・ビジネス法務検定など、法的素養を客観的に示す資格を取ること ※短答式試験合格者は不要
といったところです。
就職活動を成功させるためには、これらを就職活動開始前にまたは就職活動と並行して行っていく必要があります。
市場価値を高めることを意識せずに、“そのままの自分”だけで勝負に行く法科大学院修了生が少なくありませんが、売手市場の際はともかく、就職難の時代には、就職活動の長期化と、それに伴う加齢による市場価値の低下という負のスパイラルに陥るリスクが高まります。
今の自分だけで勝負しようとせず、とにかく、日々少しでも自分の市場価値を高めるための活動を行うことが重要になります。
(2) 自分の市場価値で勝てるフィールドで戦うこと
それでは、「自分の市場価値で勝てるフィールド」を見つけるにはどうしたらよいのでしょうか。
まずは、ご自身の市場価値を知るところからだと思います。そのために出来ることは、
①とにかく、ありとあらゆる求人に応募して選考通過率から推測する
②人材紹介会社のエージェントなど、人材の市場価値に関する情報を持っている人間に尋ねる
といったところです。市場価値に見合わない求人でも、とりあえずチャレンジだけはしたいという方がおられますが、シビアな言い方をすると、競争原理が働いている求人において、市場価値を覆す結果が出る可能性はほぼゼロです。
もちろん、チャレンジ自体は交通費等を除けばただですし、その選考結果をご自身の市場価値を判断する材料に出来るという点では、有益な部分もありますが、「競争原理が働いている求人において市場価値を覆す奇跡が起きることはない」ということは、ひとまず念頭に入れておいた方がよいと思います。
ご自身の市場価値を知った後は、いよいよ勝てるフィールド探しを行う必要があります。勝てるフィールドとは、
・自分よりも低い市場価値の人しか応募して来ない求人
・競争原理が働いていない求人(応募者がほぼいない求人)
を指します。もっとも、「競争倍率が低い=市場価値の高いライバルが応募して来る可能性が低い」という図式が成り立つので、シンプルに「競争倍率が低い求人を見出すこと」が、勝てるフィールド探しにほぼ直結することになります。
では、求人の競争倍率の高低は何に左右されるのでしょうか。競争倍率を左右する要素をまとめると以下になります。
●会社の規模
●会社の知名度
●年収(300万円台前半以下になると応募者減)
●福利厚生の手厚さ
●想定残業時間(30時間を超えると応募者減)
●年間休日日数(110日より低いと応募者が大幅減)
●口コミサイト等での企業評価
●勤務地(首都圏在住者であれば「東京」、関西圏在住者であれば「大阪・京都」以外は大幅減)
●雇用形態(正社員以外は大幅減)
●業務内容(法務業務の割合が小さくなればなるほど減少)
●入居ビル(古くなると応募者減)
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言うまでもないことでしょうが、上記で挙げた各要素のうち、ネガティブな要素が多い求人ほど、競争倍率が低くなるという仕組みです。
そのため、「他の応募者は敬遠するけれど、自分はこの条件は受容できる」という要素が多い人ほど、より競争倍率が低い求人に応募ができ、より早く就職先を見つけることができる傾向にあります。
その意味では、就職活動においては、思い描いていた“理想”を自分自身の市場価値のラインまで、いかに早く・適切に(!)下げられるかが、その成否を大きく左右すると言えます。
(もちろん、理想を下げる必要がないくらい市場価値が高い方については当てはまらない内容ですが。。)
まとめ
以上、本日は就職活動の本質について考察して来ました。昨年と打って変わって、法科大学院修了生にとって、難しい就活状況となっているため、就職選択肢が少なくなっているのは間違いないと思います。ただ、今よりも遥かに厳しいリーマンショック下の就職活動を乗り越えて、素晴らしいキャリアを歩んでいる先人はたくさんいます。
ご自身のキャリアビジョンを遠くに見据えながら、そこに向けて、現時点の自分にどんな選択肢が望めるのかを見定め、チャレンジする。こんなご時勢だからこそ、今回ご紹介した基本に忠実に、やるべきことを粛々と進めて行きましょう!
【筆者プロフィール】
齊藤 源久
法科大学院修了後、大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。
2014年より、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。前職での採用責任者の経験・長年の法務経験・司法試験受験経験などを生かし、法科大学院修了生の就職エージェント業務、企業の法務部に派遣する法科大学院修了生向けの法務実務研修の開発・実施などを担当している。
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