志望動機作りの注意点
Q.志望動機が書けません
A. 志望動機作りを苦手とする法科大学院修了生は少なくありません。しかし、多くの企業のポテンシャル採用枠において、志望動機が一定の選考要素となっているのは間違いありません。今回は、法科大学院修了生がどのように志望動機を書いていけばいいかを解説します。 法科大学院修了生の中には、 「志望動機が書けないから求人に応募出来ないという方」 「志望動機作りに困難を感じて、応募を億劫に感じる方」 などがおられます。 しかし、志望動機が書けないのは、必ずしも応募先企業に魅力がないからではありません。 それよりも、ご自身の中に『企業選びの基準』がないことが、志望動機を書けない主要因となっているケースが圧倒的に多い印象です。 『企業選びの基準』とは、簡単に言いますと、 ➊どんな「事業」を営んでいる企業に入社したいか ➋どんな「業務」を任せてもらいたいか ➌どんな「社風」の組織に入社したいか といった、応募する企業・入社する企業を決める上で大切にしたい基準になります。 法科大学院修了生が受験して来た司法試験論文試験でも、[規範≒判断枠組み]→[あてはめ]の順に論理を展開し、文章を書いていた方が大多数だと思います。 やはり、どの判断枠組みを用いるのかを示しつつ、その判断枠組みに目の前の事象がどのようにあてはまっているのかを論じて行く流れが一番説得力を出しやすいからだと思います。 説得力の高い志望動機を作る上でも同じことが言えるのではないでしょうか。 すなわち、企業選びの基準を明確に示しつつ、応募先企業のどのような特徴がその基準に適合するのか、あてはめて見せるということです。 そのためには、冒頭でお話しましたように、まずはご自身の中での「企業選びの基準」を明確にする必要があります。 会社によって、営んでいる事業にはかなり広がりがありますが、就職活動に縁遠かった法科大学院修了生にとって、「どんな事業を営んでいる企業に入社したいか」という軸を確立するのは簡単ではないと思います。 そこでお薦めしているのが、普段から目に入る広告・看板に出稿している会社の事業をイメージし、その事業に興味関心を持てるかを判断するトレーニングです。 塾の広告を見れば、塾運営事業の是非を検討し、本の広告を見れば、出版事業の是非を検討し、スポーツジムの広告を見れば、スポーツジムのフランチャイズ事業の是非を検討するといった具合です。 その上で、興味関心を持てる事業と持てない事業との共通項を見出して行き、どんな事業を営む企業に入社したいかのイメージを固めて行くという流れになります。 ちなみに、登録者の方の志望動機を見ていますと、 ・社会貢献性の高い事業 ・グローバル展開を意識した事業 ・最先端技術を取り扱う事業 ・社会インフラとなるような影響力の高い事業 といった切り口で、ご自身の興味関心の高い事業を捉えている方が多い印象です。 ただ、一点だけ気をつけて欲しいのは、人は「よく知らないこと」には興味関心を持ちづらいという性質があるということです。そして、法科大学院修了生が知っている事業の範囲は広いとは言えません。 そのような状況で企業選びを行おうとすると、必然的に普段テレビでコマーシャルを目にする事業、「モノづくり」といったわかりやるい事業に対象が限定されていく傾向が生まれます。上述のトレーニングを行う際には、よくわからない事業に対しては十分に情報を集めた上で、その是非を検討して欲しいと思います。 入社してから、どんな業務・仕事を任せてもらえるかは、皆さんにとって大きな関心事だと思います。 ・法的素養を生かせる仕事 ・英語を使う仕事 ・ビジネスジャッジを伴う仕事 ・体制構築に関わる仕事 など、様々な切り口がありますが、「どんな業務を行いたいか」という軸を打ち立てる上では、そもそも、どんな業務に自分自身がワクワクするかを自覚する必要があります。 そして、それを自覚するためには、世の中にどんな仕事があるのかについて十分に情報を収集する必要があります。 例えば、法務を志望しているのであれば、法務職の中でどんな仕事があるのか、どんなキャリアパスがあるのかを調べるといった過程が必要です。 「社風」とは、企業が持つ雰囲気や価値観を指します。企業理念や経営トップの考え方、従業員の考え方により形成されています。 多くの法科大学院修了生は企業に就職した経験がないため、「自分自身がどんな社風の会社に入りたいか」を自覚するのは簡単ではないと思いますが、「社風」と皆さんがこれまで所属して来られた、アルバイト先・部活・ゼミ・サークルなどの風土とは、ほぼイコールの概念になります。 そのため、実は、これまでのアルバイト経験・学生時代の経験等を通じて、皆さんの中には既に理想の組織風土に対する価値観が形成されていると言えます。 過去のアルバイト経験、部活経験、ゼミ経験等を振り返っていただき、「どの組織が居心地がよかったか」「その原因はどこにあるのか」などを考えていただければ、ご自身がどのような風土の組織で働きたいと考えているかが、次第に言語化されて行くと思います。 企業選びの基準が確立されたら、志望動機の6割は完成したも同然です。あとは、ご自身が打ち立てた企業選びの基準に応募先企業が当てはまっているかという観点から情報収集を行い、当てはまっていると感じる特徴・事実があれば、それを書き出して志望動機として仕上げて行く流れになります。 例えば、➊事業内容については、会社HPの「事業内容」ページですとか、業界団体のHPに有力な情報がありますし、会社名でニュース検索をすると、応募先企業が近年力を入れている取り組みなどがわかりますので、その辺の情報も参考になると思います。 また、➋業務内容については、まずは求人票の記載をチェックし、わからない用語等あれば、一つ一つ丁寧に調べる。求人票に記載された業務に関連した実務家向けの書籍を読み込む等すれば、仕事のイメージを深められると思います。 最後に、➌社風については、企業理念や代表者インタビュー(代表名で検索すれば、たまにヒットします)、代表者の書籍、新卒向け求人ページ等に掲載された先輩社員のインタビューなどに有力な情報があることが多いと思います。 志望動機作成についてかなり完璧主義になっている方がいますが、過去の登録者の選考結果を見ましても、志望動機をとてもシビアに見て書類選考を行う企業は非常に稀な印象です。 どちらかと言いますと、熱意のある志望動機を書けば書くほど評価が上がって行くという「加点法による選考」というよりは、減点事項があれば評価がどんどん下がって行く「減点法」による選考に近いと感じています。 ちなみに、減点事項としては、 ・他社への志望動機を使い回ししていることが容易にわかる ・文章が論理的に破綻している といったところです。その意味では、 「明確な企業選びの基準とその理由、当該基準に当てはまる応募先企業の特徴を押さえ、それを論理性を備えた文章で表現する」 これが出来れば、志望動機として十分合格点をもらえると思います。 今後の志望動機作りのご参考にしていただけましたら幸いです。 この記事を読まれた方は、ぜひ下記の記事も読んでみてください。
【筆者プロフィール】 法科大学院修了後、大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。 2014年より、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。前職での採用責任者の経験・長年の法務経験・司法試験受験経験などを生かし、法科大学院修了生の就職エージェント業務、企業の法務部に派遣する法科大学院修了生向けの法務実務研修の開発・実施などを担当している。 志望動機が書けない理由
「企業選びの基準」の打ち立て方
➊どんな「事業」を営んでいる企業に入社したいか
➋どんな「業務」を任せてもらいたいか
➌どんな「社風」の組織に入社したいか
当てはめ部分の作成
志望動機に求められる完成度
齊藤 源久