就職活動の経験がない法科大学院修了生の中には、「まず何から始めたらいいのか」で思い悩む方が少なくないようです。そして、その点が心理的障壁となって、なかなか就職活動に踏み出せない方が少なからずおります。
本記事では、就職活動を検討している法科大学院修了生が、就職活動の初期段階で取り組んで欲しい事項を紹介して行きます。
■そもそも、就職するか否かを決める
司法試験合格への道なかばにして就職活動を検討する法科大学院修了生の大多数は、司法試験合格への想いを大なり小なり抱えた状態で、就職活動の入り口に立つことになると思います。
中には、『正社員として働きつつ、司法試験受験を継続したい』というご意向の方もおられますが、世の中の99%の企業は司法試験の受験を応援してくれず、むしろ、司法試験の受験意思がないことを内定を出す条件として考えている企業が大多数です。
そのため、法科大学院修了生の面接においては、「司法試験を再受験する意思があるか」を繰り返し聞かれることが珍しくありません。そして、受け答えの中で、少しでも司法試験への未練が見えた場合には落選とする企業が圧倒的に多い状況です。
その意味で、企業の内定を得るためには、原則として司法試験への未練を捨てなければならないということになります。
だから、まず最初に、司法試験への未練を断ち切って就職活動に踏み切るのか、未練がなくなるまで司法試験受験を続けるのかを決断しなければなりません。
そして、仮に、司法試験受験を続ける場合、合格確率を上げることを第一に考えるのであれば、「出来るだけ働かず勉強時間を増やす」のがベストだと思います。
そのため、経済状況が許し、司法試験合格への思いがとても強い方は、まずは『働かずに受験する』道を模索すべきだと思います。
一方で、金銭面への不安やこのまま職歴を積まずに年齢を重ねることへの不安などから、『働かずに受験する』という選択肢を採れない方も少なくないのではないでしょうか。
そんな方には、企業の法務部での派遣をお薦めしています。
お金を稼ぎつつ、就職活動時の強力な武器となる「実務経験」を積めますので、金銭面の不安とキャリアへの不安を一気に解消する手段となり得ます。実際、企業の法務部で派遣社員として就業しながら、40歳近くまで司法試験に挑戦し、その後、有名企業の法務部に正社員として就職していった方の事例もあります。
もっとも、企業の法務部での派遣の場合、原則として週5日フルタイムでの勤務となり、その点が勉強時間の確保との兼ね合いでネックとなって来ます。ただ、近年は、週3日フルタイム勤務/週5日時短勤務といった派遣案件も増えていますので、一定の勉強時間を確保しつつ、金銭面・キャリア面の不安を解消することも十分可能です。
このように、企業で働きつつ司法試験受験を継続する選択肢も存在します。個々の経済状況や司法試験への想いの強さ、必要な勉強量などを踏まえ、どういった形で司法試験の受験を継続するのかを検討してみると良いと思います。
■どの領域で就職するかを決める
(1)法科大学院修了生に与えられる三大選択肢
上記を踏まえた上で、司法試験からの完全撤退を決断された方は、次に、これからどんなキャリアを目指すのかを決めなければなりません。
まずは、【ブログ記事】そもそも、「就職活動」とは何か?をご参考に、これからの人生のビジョンを定め、そこからどんなキャリアを歩むかを検討して欲しいと思います。
そして、そうした検討を経ますと、具体的な就職選択肢として主に、
という選択肢が絞られると思います。
実際、「法科⼤学院協会 修了⽣職域委員会」が発表した第5回法科⼤学院修了⽣就職動向調査によりますと、就職した司法試験未合格者の、ざっと約50%が企業に、約45%が官公庁(公務員)に、残り約5%が法律事務所などに就職しているようです。
企業と公務員、法律事務所では、情報の入手ルートも選考方法も大きく異なりますので、まずはいずれの選択肢を手に入れに行くのかを決めた上で、戦略的に動く必要があります。
企業に関しては、ぜひ弊社及び本サイトを頼っていただけたらと思いますし、公務員であれば、まずは『公務員試験総合ガイド』などで情報収集を行うと良さそうです。また、法律事務所であれば、各弁護士会のHP内に「法律事務所職員求人情報」といったページがありますので、そちらで求人情報を探すのが早いと思います。
(2)法律関連の仕事は2種類に分かれる
ここまで、法科大学院修了生に与えられる就職先の三大選択肢として、企業・公務員・法律事務所を挙げました。この記事を読んでおられる方の大多数も、この三つの選択肢のいずれかに就職する確率が極めて高いと思います。では、どういった基準で、この三種類の選択肢から一つを選び取れば後悔のない選択となるでしょうか。
法科大学院修了生一般に関心が高い、「キャリアの安定感」、「入口の給与」、「給与の伸び」、「福利厚生」なども、もちろん大切な検討要素になると思いますが、その一方で、普段、皆さんの就職相談に乗っていますと、『今まで培って来た法的素養を生かした仕事に就きたい』と考える方が想像以上に多いことに気づかされます。その意味で、「法的素養を生かせる仕事かどうか」も、皆さんにとって、とても大切な検討要素になると思います。
そのためか、企業法務、法律事務所のパラリーガル、裁判所事務官といった、法律にダイレクトに関わる仕事が法科大学院修了生の人気を集める傾向にあります。
しかし、こうした「法律に関わる仕事」は、大きく2種類に分かれ、それぞれで適性・志向性が大きく異なるので注意が必要です。
ここで言う2種類とは、“答えのある法律関連業務”と“答えのない法律関連業務”になります。
➊答えのある法律関連業務
手続き関連のお仕事に代表される“答えのある法律関連業務”は、基本的に、【正解】と照らし合わせて正しい・正しくないという概念の元で仕事を行うことになりますので、「速く正確に」業務が遂行されることに価値が置かれる傾向にあります。
すなわち、不慣れな人からすると時間がかかる仕事、他人から見て面倒に感じる仕事を引き受け、速く正確に処理して行く仕事と言い換えることが出来ると思います。そのため、周囲への貢献意識が高く、速く正確にばんばんタスクを消化して行くことに充実感を感じる方に、マッチしやすいお仕事になると思います。
一般的に、法律事務所のパラリーガル、裁判所事務官などのお仕事では、こちらの業務の割合が多い傾向にあると言われています。
➋答えのない法律関連業務
法曹三者(裁判官、検察、弁護士)の業務に代表される“答えのない法律関連業務”においては、そもそも【正解】という概念がなく、それぞれの専門性を元にいかに説得力のある答えを示せるかが問われる仕事になります。
例えば、こじれた紛争に対して、どのような結論を出すべきなのか、どうすれば訴訟に勝つことが出来るのかなどといった問いには、【正解】はありませんので、裁判官、検察、弁護士がそれぞれの専門性を元に、各々が考え得る最も説得力がある解を出し合うという構図になります。
この種の法律関連業務は、他人が出来ない難しい判断を任せられる点に大きなやりがいがある一方で、寄りかかるべき【正解】がないことへの不安が常に付きまとうという側面もあります。
答えのない問いに自分なりの答えを導き出すのが好きな方、他人が出来ないことを行うことに喜びを感じる方にはマッチしやすいお仕事だと思いますが、【正解】がない事象に対し、大きな不安を感じ、ストレスを感じてしまう方にはマッチしにくいお仕事とも言えます。
企業における法務業務は、どちらかと言うと、“答えのない法律関連業務”の割合が多い傾向にあります。
このように、ひとえに「法律に関わる仕事」といっても、それが答えのあるものかないものかで、仕事のやりがい・適性が大きく異なります。ご自身の志向性・ご性格を踏まえ、いずれの種類の法律関連業務を行うのかを決めた方が、ミスマッチを防げると思います。
【筆者プロフィール】
齊藤 源久
法科大学院修了後、大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。
2014年より、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。前職での採用責任者の経験・長年の法務経験・司法試験受験経験などを生かし、法科大学院修了生の就職エージェント業務、企業の法務部に派遣する法科大学院修了生向けの法務実務研修の開発・実施などを担当している。
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