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就職ノウハウ

アフターコロナと法科大学院修了生の法務キャリア

Q.【ブログ記事】アフターコロナの世界での法務キャリアの歩み方

A.

新型コロナウイルスの感染拡大により世界レベルで経済活動がストップしており、経済への深刻な影響が懸念されています。また、再度のパンデミックを防ぐという観点から、リモートワークの推進が一気に加速すると見る向きもあり、こうした理由から、この騒動が収束した後に、経済環境や企業の内部構造、働き方、キャリア観の大きな変容を強いられる「アフターコロナ」と呼ばれる新たな世界が訪れると言われています。

本記事では、この騒動が収束した後に訪れる「アフターコロナ」と呼ばれる世界で、法科大学院修了生がどのように法務キャリアを歩むべきかを考察していきます。

 

 

予想されるアフターコロナの世界

アフターコロナの世界では、リモートワークの普及、首都圏集中の敬遠、物流の重要度の上昇、遠隔医療やWEB教育ニーズの高まりなど、様々な変化が訪れるとされていますが、法科大学院修了生のキャリアへの影響という観点では、中短期的にはやはり、「経済環境の悪化」が一番高い影響力を持つと考えられます。

 

 

今の状況からすると、不況は避けられない。ここ数カ月の間に画期的な治療薬が発明される、あるいはワクチンができれば別だが、恐慌まで行くか、それとも大恐慌になってしまうかの瀬戸際と言っていい。

 

出典:「世界大恐慌」今だからこそ響く忌まわしい歴史(東洋経済オンライン)

 

 

では、経済環境が悪化し、「不況」になると何が起こるのでしょうか。簡単に言うと、モノもヒトもなかなか売れない時代が来るということだと思います。

「今まで価値が高いと思われて、皆がこぞって買っていたものが、変化した状況下ではそれほどの価値がないと判断されるようになり、売れなくなる状態」とも言えると思います。そのため、一般的な傾向として、不況下では、どうしても、「ヒトが売れない」。すなわち、就職難となる傾向があります。

 

ましてや現在、少なくない企業において、新型コロナウイルス騒動を教訓に、安易に従業員を多数抱えること自体をリスクと捉え始めています。感染症等の問題が生じて事業をストップせざるを得なくなったときに、従業員の休業補償の問題が大きくのしかかってくるためです。そのため、経営者の中には、「こんなに人員を抱えている必要があったのか?」と自社の人員体制を改める動きを一層強める人も出て来るはずです。

アフターコロナの世界では、経営者から見て、「本当に価値を感じる人材」だけで構成される筋肉質な組織への移行が加速すると予想されます。『大きなオフィスに大量の余剰人員を詰め込んで会社を構える』というスタイルが過去のものになる日は案外遠くないかもしれません。

 

 

ビジネスモデルが労働集約型の企業の場合、好景気の時期はパフォーマンスの低い人材でもまずは採用して、教育しながらなんとか売り上げをあげればよかった。

しかし不景気に転じれば、パフォーマンスの低い人材は経営の首を絞める要因になる。

 

出典:中小企業経営者が知っておきたい「いまどき採用事情」~ルーセントドアーズ代表・黒田真行さんに聞く~(indeed採用お役立ち情報局)

 

 

 

 

筋肉質な組織下での法務担当者

近年、法科大学院修了生をはじめとする“法務人材”は新型コロナウイルスの感染が拡大する前までは、圧倒的な売手市場となっていました。
契約書審査業務が社内に増え、その業務に対応する人を誰かしら配置しなければならなくなったことが一番の要因と考えられています。
実際、かつては難しいと言われていた法科大学院修了生の法務部門への就職活動においても、「法的素養がありそうで、普通に会話できる人材(そこに少しでも経験があれば最高。)」であれば、企業から引く手あまたの状況が生まれていました。

しかし、不況下では、企業が従来型のいわゆる「普通の法務人材」に対し、今ほどの価値を感じなくなり、法務人材の採用が大きく絞られてしまうおそれがあります。

 

では、仮に、法務人材の採用が大きく絞られ、企業が雇う法務担当者の数が大きく減った場合、法務担当者の仕事は何に代替されるのでしょうか。

ここまでの法務の市場の動向を見ている限り、

 

「営業部等の他部署の人間+リーガルテックツール(法務業務の効率化に役立つITツール)+外部弁護士」

 

の組み合わせで代替される可能性が高いのではと考えています。

すなわち、前例の踏襲や定まった業務手順の遵守で対応できる“定型的な契約書審査や法律相談”は、営業部等の他部署の人間がリーガルテックツールを活用しながら対応し、“非定型的な法務業務”は外部弁護士(顧問弁護士等)に依頼して行くというイメージです。

 

現状、多くの企業で、(a)定型的な法務業務と(b)社内対応可能な非定型的な法務業務を法務担当者が担い、(c)社内対応が難しい非定型的な法務業務(主に高度な法律解釈業務etc.)などは外部弁護士に投げるという法務体制を敷いていますが、社内に発生する法務業務の難易度や量、法務組織の設計の仕方にもよりますが、うまく条件が揃えば、一人の法務担当者を雇うよりも、はるかに低いコストで業務の代替ができる可能性が高いと見ています。

では、そういった状況下で、法務担当者はどのように自分自身の雇用を守って行けばよいのでしょうか。大きく分けて、以下の4つの戦略が考えられます。

 

①定型的な法務業務の担い手として、より低い賃金で雇われる

普通の法務人材が「他部署の人間+リーガルテックツール+外部弁護士」に代替されるとしたときの最大の理由がコスト面でした。

そうであれば、他部署の人間+リーガルテックツールがカバーする(a)定型的な法務業務をより安価に引き受けるという選択肢も一応あると思います。しかし、賃金は従前の普通の法務人材がもらっていた額よりも大きく下がると見込まれます。

 

②非定型的な法務業務を外部弁護士より低い単価で行う

もう一つ考えられるのは、「他部署の人間+リーガルテックツール+外部弁護士」という法務体制下で、外部弁護士に投げられる非定型的な法務業務(上記でいう(b)や(c)の業務)を外部弁護士よりも低い単価で引き受けるという戦略です。

社内に、「他部署の人間+リーガルテックツール」では対応できない非定型的な法務業務が多い企業においては、こうした戦略は有効になると思います。

その意味では、非定型的な法務業務に対応するスキルを身に着け、非定型的な法務業務が多い企業を見出し、そこに採用されることが必要になります。

 

③法務に限らない、幅広い管理部門の業務に対応する

他に、生き残り戦略として、人事・労務・総務・経理といった他の管理部門の業務経験も積み、「ワンストップで管理部門の仕事全般に対応できる点」を強みとしていくやり方もあると思います。管理部門の仕事をワンストップで対応できる人材がいれば、企業側にとって、コスト面で大きなメリットがありますし、様々なポイントで会社に貢献できる人材として価値を感じやすくなると思います。

 

④法務担当者ならではの新たな価値を提供する

もう一つの戦略としては、「法務担当者」という仕事を再定義し、新たな価値を会社に提供して行くというものです。

ヒトモノ情報が売れない不況を脱する上では、イノベーションが不可欠と言われています。イノベーションにより新たなベネフィット(社会への恩恵)が生まれ、そこに市場が価値を感じて購買する。その意味では、不況下では法務にもイノベーションが必要かもしれません。

 

現状、多くの企業にとって、法務担当者は「保険」に近い位置づけとなっていると思います。すなわち、リスクを抑えるための機能という位置づけです。

では、家計が苦しいときに、人は加入する「保険」を増やしたいと考えるでしょうか。むしろ、無駄と感じる保険は解約する方向に動く人が圧倒的に多いと思います。

それと同様、企業においても、家計が苦しい不況下では、「保険」機能である法務担当者のニーズは下がる傾向にあると言えます。不況下で企業が欲しいのは、「保険」を掛けてくれる人材ではなく、「お金」を会社に引っ張って来れる人材です。

その意味では、『この人がいることで、ビジネスが成功し、事業が拡大できる』という心証を会社に与えられるようなブランディング(心証形成)と、実際の価値提供が必要になって来ます。法務におけるイノベーションのヒントもこの辺りにあるように思います。

 

現状の法務担当者は、

・「現場担当者が実現したいビジネスをお手伝いする」というスタンスに立ち、
・“法務が担当すべき仕事”と“現場が担当すべき仕事”を明確に線引きし、一定の助言の後は、仕事の手を放す

というイメージで仕事をされている方が大多数だと思います。

しかし、イノベーションのためには、「現場担当者のお手伝い」という立場からいち早く抜け出し、ズカズカとビジネス領域に入って行き、「ビジネスの設計・決定に主体的に関わる」姿勢が求められるのではないでしょうか。実際、アメリカでは、法務担当者が経営全般に関する提言を積極的に行っているようです。

 

 

経営陣・他部門に対する働きかけとしては、「法的問題に限定されず、経営課題全般に対しての提言」や「自ら進んで頻繁に、法的問題・リスクの説明や法務情報の報告している」の割合が大きく、日本と比べると積極的な対応をしている傾向が強い。

出典:平成29年度産業経済研究委託事業(企業法務先進国における法務部門実態調査)報告書

 

 

これからの法務担当者には、今以上にビジネスの理解力・ビジネスを動かす力が求められるのかもしれません。

 

 

優秀と言われる人たちは、おしなべてハンズオンだという印象を持っている。深く現場に入っていき、誰が何をどのように行なっているかをよくよく理解した上で、意思決定をする。人にもオペレーションにも課題にも明るいので、お話を聞いていると、臨場感があって非常に面白い。なるほど、そこまで語れるレベルになってはじめて、組織のビジョンも語れるし、正解も再現性もないビジネスの世界で意思決定ができるのだなと、若き小生は感心したものである。

 

出典:「優秀な経営者はおしなべてハンズオンだが(人間到るところ青山あり)

 

 

上記は優秀な経営者について言及した記事ですが、こうした観点は、これからの法務担当者にも当てはまるのだと思います。

法的知識の充足はもちろんのこと、ハンズオンで現場を熟知し、「どうすれば、この事業を成功させられるのか」、「このプロジェクトを成功させるのに、どういうオペレーションを社内で回せばよいのか」、「どういう会社が業績が上向くのか」、「どういうビジネスモデルの事業が儲かるのか」等、ビジネス当事者意識を高め、全社的な視点を持ちつつ、リーガルの視点と板挟みになりながら、悩み抜いて高度な判断を行う。そんな法務担当者がこれから求められるのではないでしょうか。

 

 

 

この記事を読まれた方は、ぜひ下記の記事も読んでみてください。

『経済不況と法科大学院修了生の就職活動』

『終身雇用の終焉と法科大学院修了生の就職先選び』

 

 

 

【筆者プロフィール】
齊藤 源久

法科大学院修了後、大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。

2014年より、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。前職での採用責任者の経験・長年の法務経験・司法試験受験経験などを生かし、法科大学院修了生の就職エージェント業務、企業の法務部に派遣する法科大学院修了生向けの法務実務研修の開発・実施などを担当している。

 

 

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