面接対策と言えば「企業研究」というイメージを持たれる方も多いと思いますが、この企業研究に苦手意識を持つ法科大学院修了生が非常に多い印象です。本稿では、企業研究の目的・ゴール、そのための具体的な手法について考察して行きます。
何のために企業研究を行うのか
そもそも、企業研究は何のために行うのでしょうか。応募前の段階であれば、「応募者自身が応募の有無を決めるため」という側面があると思いますが、応募後においては、極論、「選考通過率を高める」ことが企業研究の目的になります。
企業は選考時に、①能力、②人柄、③志望度と、およそ、この3つの尺度で応募者を評価していますが、企業研究は、中でも、③志望度の高さの評価に直結します。
法科大学院修了生の中には、企業研究を「社会科系科目の試験勉強」と重ね合わせて、暗記した量により、自分の優秀さ、すなわち①能力が評価されると考えている方がおりますが、それは誤解です。企業研究の成果と明確に結びついているのは、③志望度の高さになります。
だから、企業研究の目的は、応募先企業に「志望度が高い人材と思われること」と言えます。
企業分析の3ステップ
それでは、応募先企業から「志望度が高い人材」と思われるにはどうしたらよいのでしょうか?「好きの反対語は無関心」という有名な言葉があるように、関心の高さ=志望度の高さと言えます。
つまり、面接官の目に、「自社に興味関心が強い人」と映ることが重要になります。
では、応募先企業に一番興味関心を抱いているのは誰でしょうか?それは、社長以下、応募先企業で働く人に他なりません。それは、彼らが、日々、事業に携わり、自身のキャリアを会社に預けている“当事者”だからです。
だから、彼らの持つ当事者意識のレベルに近づけば近づくほど、面接官の目に「自社に興味関心が強い人」に映るという図式が生まれます。その意味では、企業研究は「応募先企業に対する当事者意識を抱くため」に行うと言っても過言ではありません。以下が、応募先企業で働く人の当事者意識に近づくための3ステップになります。
1.まずは業界・商材に関心を抱くこと
興味関心は情報量に比例すると言われています。例えば、バネメーカーに応募する際、バネに関する予備知識がなければバネに関心を抱きようがないと思いますが、バネの種類や各バネの特徴、歴史、使用場面、バネの将来像などの情報を仕入れることで、興味関心の度合いは格段に上がると思います。
(1)まずは、応募先企業の事業内容を説明するページに行き、そこに書かれている内容を全て理解するために、わからない単語を一つ一つ調べる。
(2)次に、「業界名+展望」、「業界名+動向」、「商材名+需要」、「商材名+技術革新」といったキーワードで検索し、業界動向を語るページに目を通す。
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突き詰めていくと、キリがありませんが、ひとまず、上記が出来れば、応募先企業の取り扱う商材や業界に対する興味関心は、当初よりも格段に高まると思います。
2.応募先企業の行く末に関心を抱くこと
応募先企業で働く人は、大なり小なり、自身のキャリアや生活を会社に預けている人達です。そのため、多くは、会社の行く末に対して強い関心を抱いています。
その結果、「うちは●●が強みなのだから、もっとそれを押し出せばいいのに。」、「うちは●●が競合と比べて弱い。なんとかしなければ。」、「将来、業界は●●になるから、生き残りのためにうち~すべき。」といった、一家言を会社に対して持っている方も少なくありません。
応募先企業で働く人の当事者意識に近づけるという意味で、この2つ目のステップでは、「応募先企業に対して一家言を持つこと」が目標になります。具体的には、
(1) 「業界名+大手」、「業界名+ランキング」といったキーワードで競合他社を特定する。
(2)競合他社のHPや業界のランキングサイト等で、競合他社と応募先企業との商品・サービスの特徴の相違点を把握する。
(3)応募先企業の強み・弱みを整理し、さらに、ステップ1で調べた業界動向なども踏まえ、今後、どうすれば応募先企業の事業が発展するか、競合他社に勝てるかを自分なりに考えてみる。
(4)代表取締役のインタビュー記事などを探し、代表取締役が構想しているビジョンを知る。
(5)応募先企業名でニュース検索を行い、最近、応募先企業が行っている取り組みをチェック。それらの取り組みにどのような意図があるのか、思いを馳せてみる。
(6)ここまでで得た情報を踏まえ、改めて、どうすれば応募先企業の事業が発展するか、競合他社に勝てるかを自分なりに考えてみる。
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などを行ってみるとよいと思います。単なるインプットに留めず、インプットを元に自分なりに思考してみるのがポイントです。
3.応募先企業でのキャリアに関心を抱くこと(入社後の自分をイメージ)
ここまでで、応募先企業への興味関心と、その動向に対する当事者意識は相応に高まっていると思います。その上で、最後に、「自分自身が応募先企業で活躍している姿」を高い解像度でイメージできれば、応募先企業に対する当事者意識をもう一段押し上げることが出来ると思います。
そして、そのためには、応募先企業で、①将来的にどのように貢献したいか、②そのためにどのような成長を目指し、③何を経験したいかを具体的にイメージする必要があります。
(1) 応募先企業において、募集職種(例:法務)の仕事をしている人が具体的にどのような仕事をしているかをイメージする。
→法務であれば、取り扱う商材やビジネスモデル、所属業界等を踏まえて、法務部門で頻繁に取り扱うであろう契約書類型、規制法令を特定し、求人票記載の業務内容と合わせて、仕事のイメージを作る。
※弊社のような人材業界の会社であれば、人材紹介契約・派遣契約を多く取り扱い、職業安定法や労働者派遣法の規制を多く受けるetc.
(2)自分が応募している職種(例:法務職)では、どのような人材が社内で好まれるのか、求人票の記載(求める人物像)から推測する。
(3)応募先企業で活躍しそうな人材イメージと、自分の人物特性や保有スキル・保有ノウハウとを見比べ、今後、どのような成長を遂げる必要があるかを検討する。
(4)上記(3)の成長を遂げる上で、応募先企業でどのような経験を積みたいかを考える。
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企業研究の成果をどう活用するか
ここまで、企業研究の目的と、その具体的な手法について解説して来ました。企業研究=情報のインプットというイメージをお持ちの方が多かったと思いますが、インプット+アウトプット+自己分析を同時並行で行う必要があることがわかったと思います。しかし、いくら、事前に入念に企業研究を行っても、それが活用されなければ意味がありません。
基本的には、面接時の質問を通じて、企業研究を行っている応募者か否かが確認されますが、「志望度の高さを伝える」という企業研究の目的を果たす上では、企業研究を行って来たことを会話の端々で匂わせるのが有効です。
(例:●●に掲載された御社の代表のインタビュー記事を拝読したときに感じたのですが・・)
また、逆質問を行う場面でも、企業研究を行った際に、自分ではどうしても得ることが出来なかった情報について質問すると、有意義な時間になりますし、その際、「~を知りたくて自分で情報収集してみたのですが、●●といった情報にしか行き着くことが出来なくて」といった言葉を添えて質問すると、企業研究を行って来たことのアピールになると思います。
いずれも、正直、ある種のあざとさを感じさせるやり取りにはなりますが、面接官からしても、数十分の面接で、応募者の志望度を汲み取るのは困難を伴いますので、わかりやすく、企業研究をしっかり行って来たこと=志望度の高さを伝えるのは、面接官にとっても有益だと思います。
多くの方が考えている以上に、企業の選考において、「志望度の高さ」が選考結果にもたらす影響は大きいと感じています。
ぜひ、本記事を参考に、意義のある企業研究を行い、志望度の高さをしっかりと応募先企業に伝えて来てください。
【筆者プロフィール】
齊藤 源久
法科大学院修了後、大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。
2014年より、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。前職での採用責任者の経験・長年の法務経験・司法試験受験経験などを生かし、法科大学院修了生の就職エージェント業務、企業の法務部に派遣する法科大学院修了生向けの法務実務研修の開発・実施などを担当している。
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