学部時代に就職活動を経ていない方が多い法科大学院修了生の中には、不慣れな応募書類作りでつまづいてしまう方も少なくありません。主な失敗パターンとしては、以下のように大別出来ます。
➊勉強の話、法律の話に終始して、採用担当者を退屈させている
法科大学院修了生が直近の体験を書こうとすると、どうしても、勉強の話・法律の話が中心となってしまいます。
また、未経験という立場で企業に応募する上で、ご自身の強みを考えたときに、「法律知識」や「勉強熱心さ」に活路を見出そうという心理も働きやすいと思います。
ただ、採用担当者を含む世の中の大多数の人間は「法律」に関心がありませんし、総じて「他人の勉強の話」にも関心がありません。
単純に『話が退屈』、『話が堅い』というネガティブな心証を与えるリスクが高まりますし、ライバルとなる他の法科大学院修了生と話題がかぶり埋もれてしまうおそれがありますので、勉強の話・法律の話の割合は必要最小限に抑えた方が、良い結果に繋がりやすいと思います。
➋出来る人アピールに終始して、「人物面」のアピールが出来ていない。
法科大学院修了生の中には、『経験がない以上、自分がいかに優秀かをアピールして評価してもらうしかない』と思いこみ、書類上でも、ご自身の優秀さのアピールをひたすら行おうとする方が非常に多いです。たしかに、法科大学院内・司法試験受験においては、“優秀さ”がその人の評価を決める最大のファクター(要素)でしたので、そのように誤解してしまうのも仕方のない部分がありますが、企業は地頭の良さと共に、「教えやすさ」や「付き合いやすさ」、「人としてのかわいげ」などにも重きを置いて選考を行いますので、優秀さをアピールしただけでは不十分ということになります。
また、優秀さという観点では、学歴欄と資格欄、そして文章力を見て、ほぼ評価が終わっていますので、そこに追加で優秀さアピールを行っても、ほとんど効果はないと思った方がよいかと思います。
法科大学院修了生に対して、企業は「真面目で地頭は良いのだろうけど、世間知らずなのでは?常識がないのでは?プライドが高いのでは?」といった偏見を抱きがちです。そのような第一印象を抱いている中で、『自分は優秀です』という趣旨の文章が書き連ねられているのを見たら、採用担当者はどのような心証になるでしょうか。「プライドが高い人なのでは?」という懸念ばかりが強まるおそれがあります。
だから、法科大学院修了生が応募書類を作る際には、「人として好感が持てる」、「人として尊敬できる」という心証を読み手に形成させるような“人物面のアピール”を心がけることをお薦めしております。
➌ 自己PRに狙いがなく、ただのプロフィール紹介に終わっている。
普段、法科大学院修了生の応募書類に目を通していますと、「これを書くことでこんな心証を形成してもらおう」という“狙い”が見えない記述が多数見受けられます。自分に関する事実を、それが事実だからという理由だけで記述しているもので、代表例としては、「趣味はお菓子作りです」といったものや、応募先企業の業務内容に全く関係のない資格の記載、学生時代の部活動をただ「何部でした」とだけ書いたものなどが挙げられます。
そこに狙いがありさえすれば、お菓子作りの話題でも、業務と関係のない資格の話題でも、部活の話題でも、何でも書いていいと思うのですが、特に狙いがないままに、「自分にまつわる事実だから、とりあえず書いておく」といったスタンスで漫然と書く方が多い印象です。
しかし、書類選考においては、紙面に書かれていることのみが選考の対象となり、なおかつ、紙面に記載できる量には制限があります。だから、あざといようですが、有効なアピールを行う上で、応募書類に記載する一文一文に「こういう心証を形成してもらうためにこれを書く」という“狙い”を込める必要があります。
➍ 読み手のことを考えない抽象的・教科書的な文章を長々と書き、読み飛ばされる。
法科大学院修了生は司法試験の受験に向けて大量の論文を書いて来ました。その内容は、法解釈にまつわる抽象的な議論を展開した上で法解釈を行い、そこに事実を当てはめていき結論を導き出すというものだったと思います。
そのため、法科大学院修了生は、基本書に書かれているような抽象的な内容を文章として展開して行くことに、とても慣れていると言えます。そして、その習性ゆえか、応募書類を作成する際にも、司法試験の論文と同様に、抽象的・教科書的な文章を長々と書き連ねる方が少なからずおります。中には、そのような記述を行うことが、文章力の高さのアピールになると誤解している方すらおります。
しかし、応募書類を読む採用担当者は、地に足つかない抽象的な議論・応募者にまつわる具体的な体験とは無関係な一般論には総じて関心がありませんので、そうした文章を読むことにストレスを感じ、即座に低い評価を下して読み飛ばすおそれがあります。
基本的に、採用担当者は応募者の人となりや経て来た体験を知りたくて応募書類に目を通していますので、抽象論・一般論は出来るだけ避け、具体的な体験に基づく読みやすい文章を書いた方が、良い心証を形成出来ると思います。
➎ 接続詞の使い方がおかしい/文章の論理が破綻している。
司法試験の論文試験では、短時間に大量の文章を書く必要がありました。そのため、「適切な接続詞を使用して文章と文章の繋がりを明快なものにする」という部分にあまりパワーを割くことが出来ず、「文章の繋がりはともかく、ひとまず必要な内容を論文内に盛り込めればOK」というスタンスで論文を書く方も少なくなかったかと思います。そのためか、接続詞を慎重に吟味しない法科大学院修了生は少なくない印象です。
その結果、文章の繋がりがおかしい、文章が論理的に繋がらないという指摘を受けて、書類選考で落選となる法科大学院修了生が相当数おります。
目で文章を追いかけていますと、文章の繋がりの違和感に気づきにくい部分がありますので、文章を書き終えた後は、ご自身の書いた文章を音読しながら読み返し、音で聞いて違和感がないかをチェックしてみるとよいと思います。
❻ 志望動機が使い回し感がありあり。
法科大学院修了生の作る志望動機を見ていますと、志望動機作成の負担を軽減するためか、使い回しのものだと一読してわかるものを提出している方が少なからずおります。
しかし、弊社では求人獲得段階で、企業側に志望動機作成の要否を確認していますが、9割方の企業は「未経験である以上、ポテンシャル採用で採るわけだから、志望度を重視したい。だから、志望動機を書いて欲しい。」とおっしゃります。それだけ、志望度を重視している企業に対して、使い回し感ありありの志望動機を提出した場合、良い印象にならないのは火を見るよりも明らかだと思います。
採用担当者に対し、自社向けにオーダーメイドで作成したと思ってもらえるよう、応募先企業の事業内容や社風、業務内容などの特徴にフォーカスした志望動機を作成した方がよいと思います。
❼ 書面の内容が求人内容とマッチしていない。
企業就職を目指す法科大学院修了生の大多数は法務職での就職を希望していると思いますが、中には、大半が総務業務で一部法務業務といった類型の求人や全く法務業務が含まれない類型の求人に応募するケースもあるかと思います。
そして、そうした純粋な法務職でない求人に対して、ご自身の法律関連業務への興味関心の強さや適性の高さばかりを押し出した、志望動機や自己PRを書いている方が少なからずおります。
・普段、純粋な法務職の求人に対して応募している書類を誤って使い回してしまった
・法務業務が業務内容の一部を構成している以上、法務業務のみにフォーカスした記述をしても特に問題ないと考えた
などの理由が考えられますが、いずれにせよ、求人を出している企業としては、求人票に書かれている全ての業務に対して、適性と意欲を持った方を求めていますので、求人票に書かれた一部業務のみにフォーカスした記述を行って来る応募者に対してはミスマッチを感じやすいことになります。
(単純に、「法務100%の求人を出している企業が第一志望で、うちへの志望度は低いのだろうな」と感じると思います。)
❽ 写真の印象が悪い(表情が暗い、フレッシュ感がない)
大多数の法科大学院修了生が写真を貼り付けた履歴書を提出しています。弊社のデータ上も写真を貼り付けた書類の方が書類選考の通過率が高いという統計がありますし、実際、企業側の採用担当者から、写真貼付けのない応募者に対して写真を貼り付けるよう再度指示があるケースも少なくありませんので、写真の貼り付け自体は、弊社としても推奨しています。
しかし、せっかく写真を貼り付けたにも関わらず、写真から受ける印象が悪いと、書類選考において不利に働くことが有り得ます。印象が悪いケースとしては、
・暗そうに見える写真
・実物以上に老けて見える写真
・服装が乱れていてだらしなく見える写真
などが挙げられます。法科大学院修了生は、新卒大学生に比べて年齢が高く、勉強大好きでやや暗い、ビジネスマナーが備わっていないという偏見を持たれがちなため、そうした偏見を強化する印象を与える写真を貼り付けた場合には、一気に書類選考の通過率が下がることになります。
やはり、プロに撮影してもらうと良い印象の写真を撮ってもらえますので、お金に余裕があるのであれば、下記のような写真館で撮影してみるとよいと思います。アナウンサー職などに応募する方がよく使用している写真館のようです。
お金に余裕がない方は、最近は下記のような履歴書写真撮影用のアプリがたくさんありますので、そういったアプリを駆使して、印象の良い写真をご自宅で撮影してみるとよいと思います。
以上、法科大学院修了生の主な書類失敗パターンをまとめてみました。ここに書かれたことを一通りおさえるだけでも、一気に書類の印象を上げることが出来ると思いますので、ご参考になさってください。
【筆者プロフィール】
齊藤 源久
法科大学院修了後、大型WEBメディアを運営するIT企業にて法務責任者、事業統括マネージャーを担当した後、行政書士事務所を開設。ビジネス法務顧問として、数十社のベンチャー企業の契約法務や新規事業周りの法務相談を担う。
2014年より、株式会社More-Selectionsの専務取締役に就任。前職での採用責任者の経験・長年の法務経験・司法試験受験経験などを生かし、法科大学院修了生の就職エージェント業務、企業の法務部に派遣する法科大学院修了生向けの法務実務研修の開発・実施などを担当している。
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